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222話 人と亜人の境界

 鬼王らと無駄にトークしながらしばらくトラックを走らせていたから、空が白んできた。

 距離的には、コンウォル辺境伯領に入っている。

 もうそろそろ、魔境城塞が見えてくるはずだ。


 コンウォル辺境伯領を走ったことはないし、魔境城塞も行こうとしたけど行ったことはない。

 でも、だいたいこれくらいというのが感覚的にわかる。

 この距離感覚は我ながら天才的だなと感心する。

 ハイエースを使えることによる副次的能力に感謝したい。


 そして、薄っすらと明るくなってきた空の下の方に見える険しい山々。

 元の世界で暮らしていた時は、山が周りに見えないところで暮らしていたから新鮮な光景。

 それでも、この山々の光景が異常なことはわかる。


 山が険しすぎる。

 ていうか直立にそそり立つ壁のような崖のような山々だ。

 とても不自然な隆起の仕方をしている。


「あれって、あの切り立った山の上に亜人領がある?」


 徹夜でも平気そうに起きている鬼王に聞いてみた。


「見たことなかったのか。あれが境界線だ。あの向こうが俺たちの土地だ」


 不自然なのに、まったくそうは見ていなさそうな鬼王の反応だった。

 絶景を見慣れすぎた地元民と、それを珍しがる観光客みたいな構図だ。


「あの境界線って、やっぱり『神』がひいたんですかね? 山にしては形が変ですし」


 そう言うと、黙られた。

 黙ってこっちを見ている鬼王……それにタツコも。

 どっちも意外なことを言っているやつを見ている目だ。


「ん? 何? 何で黙ってるの?」


 そう聞くと、鬼王が苦笑してタツコを見る。

 なんなんだ?


「こいつはほんとに違う世界から来たんだな。何か面白いことでも言うのかと思ってたら、マジで質問だったんで唖然としたぞ」


「ってことは『神』がひいた境界線があれか……」


 人と亜人を分けるのに、長い山をつくってしまう強引な『神』のいる世界か。

 俺のハイエース以上に、非常識な世界だな。


「イセ、お前、本当に知らないんだな」


「お、アイ。起きたか」


 アイがむにゃむにゃと寝起きのしゃべりにくそうな声で言ってきた。

 俺たちの会話を聞いていたようだ。


「お前のいた世界には、境界線はないのか」


「国とか市区町村とかで境はあるけど、あくまで生活の都合かな。あんな風に人工的というか神工的っていうのか? まあそういうのはないぞ」


「へぇ。つまり『神』が線をひいているわけじゃないのか」


 俺が黙って首肯すると、アイは黙る。

 黙ったまま、正面に見える境界線の山を見ている。

 同じような顔をしている鬼王。


「こういう分け方、しないんだな」


「みたいだな」


 そんな話をして、また黙るアイと鬼王。

 ただこの世界のことで知らないことを聞いただけなのに、妙に意味深な反応だった。


 さらにトラックを走らせると、その先に境界線の山々に隙間があった。

 遠くからでもよく見える、山と山の間の谷。

 だんだんと見えてくるのが、その谷の地形を利用して建てられたと思われる城壁。


 山ほどは高くないが、城壁としてみるととてつもなく高い壁。

 エジン公爵領の城下町や、サミュエル自治領の城壁よりも、ずっと高い。


「あの城壁も『神』が作った?」


「あれは帝国が建てた。あそこから亜人たちが攻めてくるから必要になったんだ」


 アイが鬼王を見ると、彼は微笑んでうなずいた。


「『神』は元々、人と亜人が行き来できるようにって作ったし、実際商人たちはそう利用している。だが戦争にも使われるんだ。魔境城塞が用意されたのも仕方ない」


「山を超えるより楽だからな。あの壁が出来てからは、なかなか攻め入らせてもらえないが」


「ソロンが『竜』と戦った時の巨大化をすればあれくらい簡単に壊せるんじゃないか?」


「壊してもまた作るだろ。その辺が人と戦争してるとめんどくさいところだから、攻める時はそういう作り手ごと根絶やしにしないとな」


 相変わらず息を吸って吐くように、不穏なことを言う鬼王だ。


「時々、血気盛んなナノスらが無闇に攻めてたが、うんともすんどもだったからな」


「亜人たちも攻めあぐねるほどの城塞か」


「いや、城塞というより……アレだろ」


「あれ?」


 鬼王が正面を指差す。

 そっちを、目を凝らして見る俺とアイ。


 魔境城塞の方から、黒い点が見えた。

 それはだんだんと大きくなって、その形がわかってきた。

 鳥の翼を持っている存在が、高速で近づいてくる。


 そういえばそうだ。

 エジン公爵の特使として交渉しに行ったのがいた。


 そいつは、トラックの前あたりで減速して空中に止まったので、俺もブレーキを踏んでゆっくりと止まった。


 止まった俺たちの前に、そいつは降りてきた。


「イセさん、戦車の形が変わってませんか?」


 鳥のような翼を持つ元天使は、魔境城塞へ行っていたケアニスだった。

 ギアをパーキングに入れてサイドブレーキを引き、車から降りてケアニスに声をかけた。


「いや、これは俺のじゃなくて……」


 ケアニスは俺の返事を聞く前に、トラックのフロントガラスの向こうに見える存在に目を光らせていた。


「鬼王さんが、何故……」


「よおケアニスちゃん、こっちにいたのか」


 鬼王の態度は相変わらずだが、ケアニスの方は若干困惑している様子。

 ケアニスがそういう顔を見せるのは珍しい。


 先に鬼王が降りてケアニスと話していると、アイとタツコも降りてきた。


「アイさん、これは……」


「えっと、ソロン説明してくれ。お前が元凶だ」


「そうだった。なかなか話題につきない道中で楽しかったもんで、忘れていた」


 鬼王は俺とアイを指差して言った。


「こいつらを拉致した」


「……そうは見えませんが」


「少々脅した上で、無理矢理連れてきた。これから亜人領へ行こうと思う」


「それは聞き捨てなりませんね」


 軽く鬼王は言ったが、ケアニスは軽く受け流すどころか、見たことがないくらいの不愉快さを見せた。


「やる気? いいね」


 真力が使える堕天使と、剛術の天才の鬼王が、早朝からいきなりぶつかりあいそうになっている。


「これ、どうすんの?」


 アイは無言でタツコにしがみつき、タツコは無表情でふたりの様子を見ていた。

 あ、静観するつもりなのね。


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