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220話 鬼王の誘惑

 真っ暗闇の深夜。

 ヘッドライトでこぼこ道を照らしながらトラックでかっ飛ばす。


 そして、俺は今さっき言われたことを頭の中で自分の言葉にする。


 元の世界へ帰れるかもしれない。

 また死ぬことで、というリスクあり。


 死ぬのは嫌だし、死んで向こうで蘇る保証もない。

 そもそもこの世界に来たのだって偶然だろうし。

 ……偶然だよな?


 だいたい、かもしれないってだけで、帰れる保証はない。

 現にシガさんは、あっちに行ったまま帰ってきていない。

 こっちにあるのは、タブレットとガラケーだ。


 あ、このトラックか。

 あと俺のハイエース。


 ……それに俺、か。


「うーん、なんともわからん。どうやってあっちと行ったり来たりしてる? どっちかというと行ったっきりこっちに来て無くない?」


 と、アイに聞いてみる。

 だが返事はない。


「あれ? アイ?」


 と運転しながらの横チラ。


「……すぅ……すぅ」


「……寝てる!?」


 アイが寝てた。

 俺が戻れるかもって話は、そんなに退屈だったのか。


「夜中だぞ。お子様は寝る時間だろ」


 鬼王が苦笑している。

 まともじゃない人に、まともそうなことを言われた。


 まともじゃない人なんて、ここにいないか。


「『神』の話はこれで終わり?」


「何か話すことあんのか?」


 俺にはない。

 というか聞くことも……正直ない。


 でも君たち『神器』でしょ?

 一番話題にすべきことじゃないの?


「違う世界にいるなら、こっちからは手も出せんから対策立てようもないしな。放置でいいだろ。シガースちゃんが相手してるさ」


「そんなもんですか。軽いですね」


「まさか。手がかりが得られたのは大きい」


 と鬼王は、大きな手でギュッと拳をつくる。

 そいつを振り下ろす先を見つけたかのように。


 そして一番、殺気じみたものをバンバン出しているのはタツコだ。

 鬼王はむしろその剣呑な気にあてられている感じ。

 そんな中でも、すやすや寝ているアイは大物だ。


 タツコには『神』のことは訪ねにくい。

 あのツァルク1世に関することで、恨みつらみがあるんだろうし。


 『神』について少しは知りたかったが、まあいいか。

 手が出せない相手は置いておこう。


「こんな状況で寝られるとは、アイちゃんは規格外だなぁ」


「まったく」


 鬼王が話題を変えたので、俺も乗った。


「お前もな」


「……よく言われる」


 ドン引き気味で、そんな反応をよく貰う。


「自覚あったのか。自分は無関係ですって顔してるから、てっきり無自覚なのかと思ってた」


「流石に、こっちきて色々ありすぎたし、意味わからないことたくさんできるようになってるし」


 魔力で動くハイエース。

 ハイエースから湧き出てくる鬼たち。

 男や違う生物を女の子に変える光線。

 ハイエースと一体化する力。

 駐車場いらずのハイエース収納能力。


「自分でも変なヤツ過ぎると思う」


 鬼王はこっちを見てフッと微笑む。


「眠くないのか?」


「あまり。だいたい運転中だし、寝たら危ない」


「運転か。なんでお前はこの戦車を動かせているんだ? ナノスちゃんは動かすのに大量の魔力を使うって言ってたぞ」


「ハイエースもそうだけど……」


 俺はそう言われて、トラックに意識を向ける。

 運転席のパネルの燃料計は、満タンのまま。

 外から魔素を取り込んでいるから、と思っていたが、意識を向けたトラックから、俺の魔力が流れているのがわかった。


 ハイエースとは逆だ。

 あっちは、逆に俺の方へ魔力が流れこんでくる感覚があった。

 この違いは、なんだろう?


 アイにあとで聞いてみるか。

 鬼王にこのことを話すのは、よろしくない情報を与えてしまうことになりそうな気がする。


 鬼王に余計な情報を流すのはやばい。

 ケアニスもタツコも、俺やアイに幾分好意的だし、共に狙われていた天界の天使たちがいた。

 だが鬼王は違う。

 エジン公爵領を大変なことにしようとしてた張本人だ。

 俺からしたら、キルケに近い。


「魔力はわからないけど、運転は同じだよ。俺のいた世界だと運転免許持っているやつはみんな運転できた」


「へぇ、そういう世界か」


「中にはペーパードライバーというのもいて、免許は持ってても使わないっていう人もいた」


「使えるのに使わないか。人間っぽいな」


 何をもって人間と思っているのかわからない発言がきた。

 ご本人が納得気味なので、まあいいけど。


「ならさ、こいつはお前への交渉材料になるか?」


「ん?」


「お前を元の世界に送ってやるって言ったら、お前は俺につくか?」


 鬼王が、俺を誘っている?

 アイの元を去って、鬼王につく?


 ありえん。

 けどドライブがてらの話としては面白そうなので、乗ってみよう。


「面白い提案だけど、送ることができる保証はあったりする? アイと同じでできるかもって話かな?」


「そこだよな。到着したら見せてやるよ」


 見せる?

 送ることが、すでにできる?


「ほんとに?」


「ああ、簡単だ。ナノスちゃんができるんだ」


「マジ?」


「まあな」


 それを聞いて、アイをちらりと見る。

 まだ寝ている。

 タツコは起きていて、鬼王の方をじろりと見た。


「タツコちゃんも。『神』殺したいならいつでも言って。あっちの世界に送る方法あるから」


「……ああ」


 無視するかと思ったら、了解みたいな返事をした。


 しかし『神』を殺すか。

 アイ以外の『神器』たちって剣呑だな。


 俺、アイ以外の『神器』に召喚されなくて本当に良かった。


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