21話 これからの戦いに必要な『力』
AI機関とは。
『神器』にして人間最後の魔法使いと言われるアイが設立した、魔法研究機関のこと。
過去から連綿と受け継がれる魔法について記録の編纂と、実際に今使える魔法を文献にまとめ、未来に残すという大事な人類にとって役目を担っている。
しかし、その実体というか、実際に行われていることは、アイの活動の補佐みたいだ。
アイがこうしたいと言えば、そうするように何とか頑張る。そんな集団みたいだ。
機関の長であるアイによるワンマン集団、という側面は否めない。
アイからしても、魔法を使えるのは自分だけ。だからアイは機関に所属する研究員たちの研究材料を提供する立場であり、彼らの研究の評価を下す立場でもあり、正直本当に何から何まで自分でやっているに過ぎず、研究機関そのものは、立場上アイの補佐以外やることがない。
よってアイの考え次第で集団の方向性は決まる。
ウルシャ以下、AI機関のメンバーたちの苦労が偲ばれる。
しかしその側面は、あくまで表向きというか、建前的なもの、というのは公然の秘密のようなもののようだ。
アイは魔法使いの力によって『神器』に選ばれているらしい。
『神器』とは、この世界の神になれる存在らしく、アイ以外にも数人いるとのこと。
『人』というのは少し違うかもしれない。
人間の『神器』はアイしかいない。あとは別種族だそうだ。
そういえば『天使』っていうのが、衛兵隊長カウフマンのバックにいるとか言っていたが……
と、その辺の話をざっくりとウルシャに聞きながらドライブしていると、アイが起き出してさらに説明をしてくれた。今のところの俺の理解はそんな感じ。
この後は、AI機関のある屋敷についてから、ということになった。
ついに到着するAI機関の本拠地。
森に囲われた綺麗な湖のほとりにある屋敷。
屋敷自体は美しいが、周りには作りたてっぽい柵が作られている。
急いで作ったのが素人目でもわかるくらいのもので、ここで暮らす人たちの緊張感が見てとれる。
屋敷の外にいる武装した兵士たち。きっとAI機関の者たちだろう。
ウルシャはもちろん、城下町で見た衛兵たちよりも、装備は微妙だし、動きもどこか鍛えられてない感がある。
それでも、通すものかという気合いで、こっちに近付いてきた。
「初めて自動車を見たら、そりゃびっくりするよな」
笑顔で言ったアイは、すぐさま助手席から飛び出した。
「みんな! 戻ったぞ!!」
「「「「アイ様っ!!」」」」
寄ってきた兵士も、明らかに兵士っぽくない人たちも、アイが出たことで喜びの驚きを示し、わーっ! と近付いてきた。そしてもみくちゃにされるアイ。
「うわーっ、待て待て待てーっ!」
「アイ様! よくぞごぶじでーっ!」「心配しましたよっ!」「いきなり城下町まで行くって連絡が来た時はどうしようかと!!」「ほんとに、無茶なさらないでくださいっ!!」と思い思いに、喜んでいるし、怒ってもいるし、泣いているのもいる。
様付けされているが、親しい仲間や家族のように心配されているアイ。
いい仲間たちと一緒にいるみたいだ。
「すまない。イセのことを皆に紹介する」
「いいって、これくらい待つから。むしろいいものを見せてもらったよ」
ウルシャに言って、皆が少し落ち着くのを待ってから、一緒に降りた。
「アイ様、皆にイセの紹介を」
「そうだった!? みんな、静かにしてくれ!」
アイの言葉で、ざわつきが収まる。
「この者が、今回オフィリア様救出に協力してくれた、召喚した戦士だ!!」
「「「「おおおおっ!?」」」」
ざわざわと、比較的好印象な反応が返ってきた。
っていうか、何? 戦士? 俺は戦士? 聖戦士?
その驚きの後、戦士には見えない的な、不審がるような反応に変わっていく。
「皆の疑問もわかる。だが彼は『力』を示した。この至高なる鋼鉄の移動要塞という自動車を出してなっ!!
ざわざわとざわめく皆。「鋼鉄の馬車みたいな乗り物が彼のものか」「ジドウシャとはいったいなんだ? 攻城兵器か?」「武器らしいものはついてないが」「いや、ここに来る時のあのスピード、尋常じゃなかったぞ」等々、思い思いに話している。
するとウルシャが後部座席を開け、気絶中のオフィリアを見せる。
「この者は、こうしてオフィリア様を救って運んでくれたのだ。皆、彼のことは客人として扱ってくれ」
皆が思い思いに、了解の返事をする。
そして俺に近付いてくる者がいて、気さくに挨拶をしてくる。
俺はそれに対して、普通に「イセだ。よろしく」と握手していく。非常に戸惑う。こんな歓迎生まれて初めてだ。
「手の空いている者。オフィリア様を貴賓室へ。迎え入れる準備はできているな?」
「ウルシャ様、申し訳ございません。こんなに速く帰ってこられるとは思わなくて、まだ半分といったところです。すぐに用意させます」
謝りつつも、嬉しそうに何人かの者たちが屋敷へ戻っていく。
公爵令嬢を助かったことを喜んでいるようだ。
そして、オフィリアが、彼らの後に続いて丁重に運ばれていく。
「ひとまず、これでミッションクリアか」
彼らに迎え入れられるオフィリアを見て、ふぅと息をつくと、すっと力が抜けた。
心地良い疲労感だなと思った。
「イセ、ウルシャ、本当に助かった。ありがとう」
「アイ様も、お疲れ様です。イセもな」
「これは、俺たちの大勝利ってことでいいのか?」
「もちろんだ。何度も何度も、あのカウフマンにはしてやられていたのだ。まさかこんなことになるとは、あいつも思ってもいまい」
ふふん、悔しいだろうなぁ、的な感じで笑むアイ。それだけ彼女の方が悔しい思いをしてきたということか。
「召喚してたった1日で逆転のチャンスを掴んだ。イセ、おぬしのおかげだ」
「それはまあ、よかった」
真正面きって言われて、あからさまに照れる俺。
さっきの歓迎といい、こんな風に扱われたのって過去にあったかなぁ?
これも異世界転生様々か。
ヘンテコなチート能力だったが、大変役に立った。
「だが、この自動車もここからは使えなくなるんだったな。確かガソリンがないとか」
「そのことなんだが……」
俺はここまでの帰り道で、ウルシャに話したことをアイに伝えた。
「つまりだ。ガソリンを減らして走るのが自動車なのに、減ってなかったと」
「ああ。俺が予想するに」
「魔法の力で動く、か?」
「そう。この世界に魔法の元になるようなものは……」
「魔素だな? たんまりあるぞ。いくら使っても減らないくらいな……つまりまだまだ走れるのか!」
「ああ! 壊れるまでタダで走れるぞ! すごいぞ! ガソリン代がタダだ!! 全国のドライバーたちが大喜びするぞ!」
「よくわからんがやった!!!」
「やったぞ!!」
俺はアイに抱きついて、そのままぐるぐると回る。
天空の城の庭園で、あのふたりがやってたやつみたいな、あんな感じで喜びあう。
「よし、ならまだ走れるな!」
「おうよ!」
「湖の上、走ろう!」
「無理」
「えー」
無邪気に喜んでいたアイが、瞬間しょぼんとなる。
この笑顔を、まだこの場に留めたい!!
「よし。やってみよう! もしかしたら走れるかもしれない!」
「ほんとか! ほんとに走れるのか!」
「魔法だし! 本来の自動車はエンジンに水が入ると壊れて走れなくなるらしいが、魔法なら大丈夫だ!」
「え? ほんと? ほんとに大丈夫か?」
「やってみよう!」
「や、やってみて壊れたら……」
若干びびってるみたいだが、アイが言い出しっぺだ。
「まあ何とかなるよ!」
俺が運転席に座ると、アイはおっかなびっくり気味だが、助手席に座った。
「シートベルト」
「わかってるって」
ちゃんと付けたのを確認して、さあ行くぞとアクセルを踏む。
じわじわと湖のそばに近づき、波打ち際あたりを走ってみる。
タイヤが水に触れたあたりで、びしゃーと水しぶきをあげた。
「おおおっ! すごーい! 魔法みたいだ!!」
「これがこいつの魔法なんだぜ!」
「女の子連れ込んで、悪いことするだけじゃないんだな!」
「もうそれ言わないっ!!」
アイを相手に、湖の水際ドライブをするの楽しい。
若者の車離れも、こんな楽しさを知ってもられば解消されるに違いない!
そのために、ガソリン代はタダにすればいい!! 無茶言うな? ごめんなさい!!
「いやぁ。異世界転生っていいな。車乗り放題とか」
「いいな! おぬしを召喚してよかったぞ!」
「俺も! 召喚されてよかった!」
アイと一緒にはしゃぐ俺。
このまま湖の上も走れるんじゃないか? 行ってみようかな? そう思った時に、俺たちを見ているウルシャの方を見た。
ウルシャの顔は、遠くて見えない。でも、その後ろからやってきた人影はわかった。
「アイ、オフィリアさんが起きたみたいだよ」
「ほんとだ!」
アイが助手席から降りようとするので止めて、車で近くまで行った。
止まった瞬間、犬が主人の命令で放たれたみたいに、すっ飛んで降りてオフィリアに抱きついた。
「オフィリア! 無事でよかった!!」
「アイ様。助けてくださって本当にありがとうございます」
「ううん。アイの方こそ、大変な目に合わせてすまぬ。それに……公爵閣下のことも……」
「アイ様が原因ではありません」
「だけど、だけど、アイのことを援助してなかったら……」
「もしお父様がアイ様の援助をしないと言ったとしても、私がしていました。この公爵領には、アイ様に助けられてばかりです。アイ様が活動できるように少しでも援助するのは為政者として当然ですから」
「本当にごめん。ごめんなさい、オフィリア。閣下を守れなかった……アイは、閣下を……」
「そのお心遣い、痛み入ります……アイ様」
美しい公爵令嬢と、可愛い幼女が抱き締めあって慰め合う。
その光景に少しウルッときつつも、俺には為政者として当然、という言葉が気になった。
ふたりにとって何があったのかはわからない。
しかし、ふたりともその細い肩に、国や世界の命運をしょっているのかと思うと、なんとも言えない気持ちになる。
しばらくお互いを労るように抱き締めあった後、アイがゆっくりとオフィリアから離れる。
「オフィリア、いったい公爵領で何があったんだ? 詳しく教えてくれ」
「はい。お耳にいれて欲しいことがありました。カウフマンと今後の公爵領についてです」
まるでここからが本題とでも言うかのような、緊張感が走った。
まだ召喚されて1日も経ってないんだけど、どんどん話が大きくなっていく。
そしてこれからもっと、大変なことになっていく。そんな予感がした。




