218話 『神器』の原点
アイはシガさんとの会話を一方的に止める。
それを鬼王はあっさり認めて、電話を切った。
「え? 終わり?」
「うん」
「どーゆーこと?」
「師匠ともう話すことはない」
「…………」
いったい何が、アイの怒りの琴線に振れたの?
可愛らしさそのままで、お怒りMAX顔の迫力も出すという器用なことをしながら黙る。
本気の怒りを堪えてないと叫びだしそうなのか、息を止めるように黙っている。
元々、同盟組んだっていうのに騙してきてたから、堪忍袋の緒が切れた状態ってところかとも思うが、そういうのとはまた違う感じ。
で、何があった? と不思議がっているのは俺だけで、鬼王もタツコもアイに気でもつかっているのか、黙ったままだ。
「……いやいや、話すことないって何? これからだったでしょ」
「イセを送ったヤツのことか?」
「それ。それ聞き出すためにわざわざ話したんだよ」
「見当ついた」
「え?」
「確定でしょ。シガースちゃん、ちょっと焦ってたし」
鬼王が何故か続けてアイの言うことを補足する。
「ああ、間違いない」
アイと鬼王の中では、俺を送り込んだ奴がわかっている。
俺はわかってない。
じゃあタツコは?
「……『神』か。どおりで探してもいないわけだ」
タツコが、アイの見当と鬼王の確定を言葉にした。
ん? 『神』?
今、『神』って言ったよね? 『神』ってこの世界の神様のことだよね? その認識でいいんだよね?
「イセがいた世界にいたんだな。あ、ソロン、もしかして知ってた?」
「予想はしてた。シガースちゃんとイセちゃんの繋がりからして、何かあるでしょとは考えてたから」
「師匠、『神』と一緒だったんだな。一度死んで転生したのか、あるいはイセみたいに移動したのか。こっちに戻ってこられないのか、それとも戻ってくる気がないだけなのか」
「その辺はわからないなぁ。シガースちゃんなら何か知ってるんじゃないの? あのままあっちについちゃえばもう少しわかったんじゃない?」
「ありえない。『神』につくとか。師匠も何考えてんだか」
「いやぁ、利用されてんじゃないの? シガースちゃん」
俺にわかりやすく話す気もなく、ふたりだけでわかっていることをベラベラしゃべっているアイと鬼王。
『神器』同士ならわかることなんだろうけど、タツコだけ蚊帳の外か、と思ったら、今、丁度タツコから不機嫌オーラが吹き出した。
「ん? タツコ、どうした?」
「なんでもない」
「あれだろ。タツコちゃんも利用されたクチだろ? 何で利用されたのかしらないけど」
タツコが、鬼王を目だけ動かして睨む。
鬼王の言っていることがどうやら合っているみたいだ。
「タツコもってことは、ソロンも利用されたのか?」
「ん? そうだよ。アイちゃんと似たようなもんだ」
「アイと?」
アイが言われてきょとんとする。
それを見た鬼王が少し目を見開く。
「あ、そっか。気づいてないならいいや……」
「ん? んん?」
鬼王は苦笑して言った。
「もし俺が利用されてなかったら、人間と亜人との立場は逆だったな。こっちが俺たちの土地で、あっちが人間たちの土地」
鬼王はアイの方の話はせず、自分の方の話を始めた。
「『剛術』ってのは『神』が作ったんだよ。『真力』と『魔法』もそうだろ?」
「それが?」
「だから。俺たち、追いやられただろうが。天界と人間たちに」
アイがそれを聞いて首をかしげ、それから何かに気づいたようにポンと手を打った。
「おおっ! そういうことか! だから人間には『魔法』を与えたの……か?」
「やはり師弟そろっておバカか? それとも天才過ぎて気づけなかったかってやつか」
そろそろツッコミを入れる。
「何? 何の話? だいたいしかわからん。もう少しわかるように話してくれー」
気になって運転がおろそかになってるよ!
今、ちょっと道の凹みを除け損ないそうになったの、気づいてない?
「簡単に言うとさ、俺たちはみんな『神』に利用されてるって話でさ。だいたい『神器』ってのは利用された者の成れの果てなんだよ」
鬼王がそう言うと、タツコはまた不機嫌オーラをだだ漏れにし始めた。




