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217話 あっちの世界

「わーった、じゃシガースちゃんとこに連絡つけよう」


 と、でかい体のせいで狭い苦しそうにもぞもぞとポケットから携帯電話を取り出す鬼王。


「え? 持ってるの?」


「これがあったから、こいつを受け取るやりとりできたんだ」


 こいつというのはこのトラックのことだ。


「お前らは、使えなくしてるんだろ? 壊したのか? 連絡つかないってシガースちゃん言ってたぞ」


 言いながら、鬼王は呼び出し音を鳴らす携帯を手にして反応を待っている。

 呼び出し中の間を、かったるそうにしている。


 鬼王は、人に電話することに躊躇してる様子がまったくないタイプみたいだ。

 俺はなかなか連絡できないタイプだったな。


「繋がったらアイちゃんたちで話して。これで聞きたいこと聞ければ、町まで行かなくて済むだろ?」


「まあ、そうですが……」


 面と向かって話した方が、正直に話さないとサミュエル自治領が大変なことになるかもしれないよ、という脅しが効いていいかなと。

 鬼王がいるからなおさら。


「お前がこっちに来た理由について、シガースちゃんが知ってるかもしれないって話なんだよな。それって俺に関係ないだろ?」


 鬼王に聞かれて、すぐには答えられない。

 いや、あるはずがない……と思う。


「俺の用事はそっちとは関係ないからな、こいつで聞いたら俺の用事の方を先に済ませてもらうぞ」


「あ、はい」


「俺の方が終わった後は好きにしろ。条件によっては手伝ってやってもいいから」


 意外と優しい申し出にびっくりした。

 考えてみたら、このために携帯で連絡つけるって発想も、人がいいよな。


「ソロン、いいやつだな」


 アイが俺と同じようなことを感じて、そのまま口にした。

 鬼王は、へっと苦笑する。


「さっさと済ませたいからだ」


「せっかちか」


「アイちゃんやシガースちゃんほどじゃないと思うけどなぁ」


 と言ったところで、呼び出し音が止まる。


「お、繋がった。おい、シガースちゃん」


「ソロン、どうした? もう戻ったのか? 何か問題でも?」


「その問題だ」


「なに? 襲撃失敗?」


「いや。そっちは大成功。うちのナノスが昏睡状態だが、アイちゃんたちを穏便に確保したよ」


 穏便? あれが……


「大した被害も出してなくて何より。エジン公爵には手を出してないだろうな? これからの帝国のまとめ役にあそこ必要なんだよ」


「そっちの事情は知らないが、でも手は出してないよ」


 襲う気満々だった気がするのだが……


「そいつは上々。で、何? 帰ってから連絡するって話じゃなかったっけ?」


「アイちゃんとイセちゃんが、話したいって言うから」


「え……ええぇ……。なんでこのタイミングで? 話しにくいんだけど……」


 シガさんの戸惑ってる声が聞こえた。


「裏切ったり騙したりは、君らにとってはいつものことじゃないか。代わるから質問にこたえてやってくれ」


 と言ったところで、鬼王はアイに携帯を渡した。

 アイは、不満そうに受け取って話し出す。


「師匠」


「アイ……えっと……ソロンに襲われたんだよな。みんな無事か」


「……一応な」


「ふぅ、良かった。死者は出てなさそうだな」


「なんでわかった? 監視してたのか?」


「まさか。アイの反応でわかっただけだ。関係者に死人が出たら、私とそんな風に話したりはしない」


 なるほど、アイが吹っ掛けられただけか。

 監視じゃなくて何より。


 ついさっきあった出来事を、シガさんが知る手段があったとしたら、こっちの情報は筒抜け過ぎる。


「それで、何?」


「聞きたいことがある。なければもう師匠とは話したくない」


「何が聞きたい」


「イセのことだ」


 アイはこちらをちらりと見た後、意を決して聞く。


「イセはアイが召喚術で召喚した。新たな力を外に求めて魔法の要素を加えて召喚をしたんだ」


「だろうな。想像はつく」


「今、ソロンが使っている戦車も、師匠のいる世界から召喚術で召喚されたものだ。その際に師匠がそっちの世界からソロンの召喚術で干渉した。だから戦車が召喚できた」


 トラックは、シガさんと鬼王によって、この世界にやってきた。


「……で、何が知りたいんだ?」


「師匠のいる世界、そっちにイセを送ったやつがいないか?」


「…………」


 息を呑む音が聞こえた。

 いや、その瞬間、自分が緊張して喉が動いただけかもしれない。


 シガさんは少し黙った後、言った。


「いるよ」


「誰だ」


 間髪入れずにアイが聞く。


「言えない。こっちにつくなら、教えてやってもいいが」


「いや、いいや。またあとで連絡入れる」


「おい、ちょっと待て、交渉の余地なしかよ!」


 シガさんが何か言っているが無視して、アイは携帯の文字盤を見て……


「……イセ、これどうやって止めるんだっけ?」


「ここだよ」


 アイから携帯を取り上げて、鬼王が電話を切った。


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