216 送り主
鬼王はダッシュボードをぽんぽんと手で叩きながら言う。
「こいつはお前のいた世界のものだろ? ならあっちから送ってもらうしかないじゃないか」
おかしなことを言っている。
いや、当たり前のことを言っている。
確かに言っていることはそのとおりだ。
俺が元いた世界のものを、こっちによこすには向こうから送ってもらうしかない。
あるいはこっちから取りにいったヤツが、こっちに戻ってくる必要がある。
結局、向こうからこちらへという手順は踏まなければならない。
であるなら、疑問が浮かぶ。
「……誰に?」
「ん?」
「誰に送ってもらったんでしょう?」
「え? そりゃ決まってるだろ」
何を言っているんだお前って顔を鬼王にされた後、アイが口を出してきた。
「師匠か」
シガさんか!?
そういやガラケーを送ってきたんだっけか。
あのタブレットもそうか?
でもこんなでかい車を?
これを送るくらいなら、スパコンひとつくらい平気で送って来られそうだけど。
「こんなでかいのを、シガさん送れるんだ……」
「無理だろ。だから俺が使う召喚術の一部を借りて送ってきたんだよ」
「なるほどな。召喚術で出口を作ったわけか。それに魔素の供給は剛術だから天使たちは感知しにくいわけか」
「そそ。シガースちゃんって頭いいよな。こういうことしようとするところは、師弟そろってバカっぽいけど」
そこまで話したアイは、黙る。
バカって言われたのを怒っている?
タツコの上に座るアイの顔をちらっと見たが、少し怒っているようにも見える。
「よしっ! イセ、進路変更。サミュエルんとこ行くぞ」
「え? どういうこと?」
一瞬思った疑問を、鬼王が言葉にしてくれた。
先に驚いてくれて冷静になれたのかアイの意図がわかった。
「なるほど。そうしよう。でもそれならこのまま道なりだ。町を迂回せずにまっすぐ行くぞ」
サミュエル自治領の都市部を遠巻きに抜けて行こうとしていたので進路そのものは同じだ。
「おいおい、俺んとこに行くって話だっただろ」
「この戦車を分析するのが目的だろ? ならこいつについて一番くわしい師匠に話を聞いた方がいい」
俺も同意とうなずいた。
「そりゃねぇだろ。これは俺んだぞ。俺の言う通りにしろ」
オーナー様の権利を主張された。
「ソロンでは操れないが、アイはイセに操らせることができるし、戦車に関してはアイの方が付き合いが長い。そのアイが言っているんだ。師匠に聞いた方がいいって」
「でもなぁ、あいつに接触したせいでこいつを使えなくされたら俺、大損だろ」
「師匠のことだ。無効化する手くらい今の時点で用意してる」
「ないかもしれないだろ」
「……否定できない」
「だろ? あいつバカだからさ、やりすぎるところあるだろ? 後先考えずにさ」
「うーん、でもこの件は、師匠と話しつけておきたんだよな……」
アイがこっちに真剣な視線を向けて言う。
言わんとしていることはわかる。
俺は今回のこのトラックの件で疑問に思ったからだ。
タブレットから音声を送っているシガさん。
ご本人は、俺のいる元の世界にいる。
そして、タブレットやガラケーをこちらに送り、さらにはトラックまで送ることができる。
似たような例として……俺がいる。
俺も、こちらの世界に来たあちらの世界の異物だ。
つまり……
俺がこっちの世界に来た原因をシガさんは知っている?
あるいは……
その原因のすぐ近くに、シガさんはいるのではないか?
このタイミングでシガさんに接触できれば、俺のことを聞き出せるかもしれない。




