215話 ドライブトーク
「では出発」
サイドブレーキを下ろして、ゆっくりと進み始めるトラック。
ハイエースとは少しだけ操作感が違う。
ていうか、全然違う。
こっちにくる前にレンタルした直後のハイエースの乗り心地に近いか。
「揺れるな」
「そうか? 馬車より快適だろ」
「イセの戦車はこんなに揺れないぞ」
「へぇ、今度乗せてもらおう」
「ソロンは乗せない」
「おいイセ、乗せてくれ」
「うちの『神器』様が嫌って言ってるなら乗せたくないかな」
「そうか。なら無理矢理な」
思ったより気さくな感じで車内トークが始まった。
てか、無理矢理とか言ってるので、もしそうなったらアイにはさっさと許可だしてもらおう。
「それでどこに向かっているんだ?」
「どこって……」
そういえばちゃんと聞いてなかった。
てか、場所を言われて俺はわかるのか?
「俺の土地だ。亜人領って言えばいいのか」
「ってことは、まずは魔境城塞だな。イセ、あっちだ。サミュエル自治領の方」
このトラックが来た方は覚えていて、そっちにアイが指差したので、進行方向をそっちに向けた。
曲がる時の感触が、ハイエースとやっぱり違う。
「この車は走りにくいから、前の時のようなスピード出せないかも」
「もっとガンガン飛ばしていいぞ。来る時はこんなに遅くなかった」
助手席が鬼王で、運転があの粗暴の塊みたいなナノスなら、この揺れの中でもアクセルをべた踏みできただろうが、アイがいるし、荷台にはナノスが寝てるしで、鬼王のいう通りは無理と判断した。
「俺にはこれくらいしか出せません」
「そうなのか。まあいいけど」
「それで、なんでアイを連れ出そうとしたんでしょう?」
雑談を切り上げて、俺はアイの代わりに鬼王の目的を聞いた。
これで話してくれるとは思わないが。
いきなり初っ端から全部教えてくれるわけないし。
「この戦車の解析を手伝って欲しいんだ。アイ、得意だろ?」
「そんなことか? それならわざわざそっちに行かなくていいだろ。ウチでやろう」
「外の世界の力を使うと天使連中が襲ってくるだろ。俺が『竜』の時のタツコちゃんを召喚した時、あいつら襲ってきたぞ」
俺が召喚された時は、来なかった。
だが、俺がカウフタンに『力』を使った後は来た。
タツコは天使たちの使う真力の大本だ。
召喚された瞬間に気づかれた可能性は高い。
天使たちは、異なる力を使われると気づく、ということか。
と、そこまで思いついた段階で、俺はアイの口を塞いだ。
塞いだ意味は『天使たちは今、ケアニスのせいで真力という力を失ってるからその心配ないよ』ってアイが話し出したりしないようにするためだ。
「ん? どしたの?」
「なんでもない。そういうことなら仕方ないね。あ、でもさ……」
俺はアイに俺が話すのを止めた理由を考えてもらうための時間を稼ぐために、話をそらした。
「でもこのトラックを召喚した時は、天使たちは反応しなかったの?」
「召喚してないからな」
「はい?」
「これは、イセが元いた世界から、こっそり送ってもらったんだ」
「え?」
何気なく聞いたのに、とんでもない返答が来た。




