213話 耐え忍ぶ美人女護衛
目の前で護衛が拉致されて、車の中へ連れ込まれたのを見て、泣き叫ぶような声をあげるアイ。
気持ちわかる。俺もひどいと思う。
でも……
「これでウルシャも連れていける」
「え?」
「これでウルシャも連れていける」
聞かれたので、もう一度答えた。
アイに何を言っているのかわからないって顔をされた。
混乱している。どうしようか。
「質問、いいっすか?」
目の前で先輩が大変なことになっていても冷静に、クオンが発言の許可を求めてきた。
「どうぞ」
「こんな風にされたら、護衛はできないっすよね」
クオンは窓から車内を覗き込む。
屈強な鬼たちに両手両足を取り押さえられ、口も塞がれて身動きがとれないウルシャがいた。
とてもヤバい絵面だ。
こんな能力を得ておいて、なんやかやで色々あったが、ようやくこのような状況を作ることができたのは、少しだけ感慨深い。
「おいイセ、これでウルシャが納得すると思うか?」
ウルシャの気持ちを代弁のようなことを、カウフタンが聞いてきた。
劣情込みの感慨深さを振り払い、真面目に応える。
「こうでないと、みんな助からない」
ウルシャたち、ここにいるメンツもそうだが、今、公爵領にいる人たちも危機的状況だ。
俺は、帝都で『竜』と戦う鬼王を見た。
『竜』をハンマー投げみたいに投げ飛ばす巨大な鬼王の姿を見た。
あんなのが暴れた場合、3分もあれば町の全てが粉々だ。
「アイ。これでいくぞ」
「…………」
アイは、俺を睨むように見ながら黙る。
納得できないって顔をされても、俺もひくつもりはない。
「守りたいものを守るためだ」
そのために、ウルシャにはこの屈辱に耐えてもらう。
そして彼女を大切に思うアイには、俺の共犯者になってもらう。
「……ずっと守られてきた。だからこそアイは、ここで『神器』であるこの身を賭ける」
「わかっている。だからこうした」
こう、と言いながら、車体をコンコンと叩いた。
正当な理由のある車内連れ込み……ちょっとそそる。
そんな俺の気持ちをよそに、アイは車内のウルシャに声をかけた。
「ウルシャ、このまま連れていくぞ。この先、必ずウルシャの剣が必要になる。だから、耐えてくれ」
車内でそれを聞くウルシャは、覚悟を決めたように目を閉じて、口を抑えられながらうなずく。
……こんな状況を耐え忍ぶ美人女護衛……やばい。
俺は劣情込みの妄想を振り払い、アイとウルシャの決死の覚悟に応え、車体を俺の中へと仕舞った。
ウルシャを車内に入れたまま、解けるように俺の中へ吸い込まれていくハイエース。
ようやくこの先へ進む準備ができた。
アイは鬼王の方へ一歩二歩と進みながら大声で呼びかける。
「ソロン! こちらの話はついた。行こうか!」




