212話 こんな時でもいつもの
「作戦タイム?」
鬼王は俺の適当に言ったことを復唱して聞いてきた。
「あ、いや、えっと、今こっち揉めてるから、相談させてくれないかな?」
鬼王に俺が言うと、少し考える素振りをしたあと、軽く言ってきた。
「構わんぞ。まだアイちゃんの言う通りにってしてるわけじゃないからな」
鬼王は相変わらず、暴力に訴える気持ちはさらさら変えていない様子。
ここは、せっかくもらった相談時間で何とかしないと。
「助かる」
そう言って俺はアイとウルシャの手をとる。
「ちょっとこっちへ」
あっけにとられたふたりを連れて、鬼王から少し離れて、カウフタンら皆にこっちきてくれと呼んだ。
鬼王の目の前で、堂々と相談を始める俺たち。
この非常識な状況は、今この場にいる中では、俺しか作れないだろう。
俺が非常識って意味ではなくて……いやそうでもないか。
この世界にとって、俺は非常識だろうから。
「なんだ、いったい」
アイが聞いてきた。
さて、どう切り出そうか。
まずは、今回のことをする上で必要な情報開示だな。
「ちょっと今、試していることがあるんだ」
「この状況で試している……さすがイセ殿っすね……」
感心したようなことを口にするクオン。
だが、アイやカウフタンは、どっちかというと何言ってんだこいつって目でこっちを見た。
多分、そっちが正解。
「元々はこれを試すために、町の外に出てきたんだ」
と言いながら、俺は皆の前にハイエースを出してみせる。
何度も見ているアイやウルシャ、カウフタンにタツコは平常だが、衛兵隊の皆さんはびくっとなっている。
うん、やっぱり非常識だよね……
ハイエースは鬼王からこっちの姿を隠すような位置に出した。
そして横のドアをスライドして車内を見る。
荷台には、タツコが抱え持っていた布巻きされた人の大きさくらいのものがある。
仮死状態になっているツァルクの体だ。
それを見た瞬間、タツコはツァルクの体に触れる。
「タツコ、どうだ?」
「……変わらないな」
「なら安全ってことだな」
「ああ」
俺とタツコの会話に、首をかしげるアイ。
「どういうことだ?」
その質問には応えず、俺は俺の話をする。
「アイ、さっき俺たちだけで鬼王についていくって言ったよな」
うなずくアイは、ウルシャの方を気にして見る。
そのことに気づかないふりをして話を続ける。
「カウフタンとタツコは、ここにお留守番。でもってタツコは『神器』だから一緒に来るよな」
「ああ」
カウフタンとタツコは応えないが、タツコは応えた。
ツァルクの安全が確保できるなら、タツコはついてきてくれるだろうし、鬼王も『神器』のタツコは皆殺しの例外に入っていたから問題ないだろう。
で、これから1番の問題に対処する。
「ウルシャは、護衛としてついてきてほしい」
そう言うと、皆が何言ってんだこいつっていう目で俺を見る。
「それを鬼王様に通すのか?」
ウルシャがもっともな疑問を投げてくる。
対して俺は、通るかどうかわからないけど、強引にことを進めようと思った。
その思ったことに……タツコが反応した。
『おぬし、まさか』
タツコの念話が聞こえたが、気にせず実行にうつす。
「鬼たち、よろしく」
短くそう言うと、開いたドアから鬼たちが現れ、次々とウルシャに襲いかかる。
不意をうたれても超反応を見せるウルシャだが、幾本も伸びてくる太い腕に捕まり、ハイエースの中へ連れ込まれた。
ドアはスライドして閉じられ、閉じた瞬間にハイエースは霧のようになって俺の中へ仕舞われる。
あっけにとられているアイたち。
「なっ、何してんだーっ!?」
アイの叫びに、俺は言った。
「これでウルシャも連れていける」




