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207話 やってしまった……?

 俺は慌ててブレーキを踏んだ。


 免許取ってからほとんど乗ってないから、公道では初の急ブレーキだ。

 俺にとっては、教習所でやったことがあるくらいの、止まる反動気にせずギュッと踏むやつをした。

 でもあの時は20キロとか30キロくらいだった。

 今回のはもっと出てた気がする。

 シートベルトの締め付けで、息が止まった。


 でも、もっと強い衝撃を……ハイエースは感じていた。


「や、やっちまった……」


 やばい。

 なんか、この野郎って感情の勢いにまかせてやってしまった。


 う、うわー。

 これやばいよやばいよ。


 こういう時はどうしたらいいのか。

 本当はこのまま運転席に閉じこもっていたい。

 いたいが、放置するわけにもいかない。

 何故なら、自分がやってしまったわけだから。


 借り物のレンタカーで、人を跳ねちゃったわけだから。


 あ、いや、もうそういう次元ではないくらい、ハイエースは俺のものなんだが。

 鬼たちは出てくるし、女の子にしてしまう光線は出るし、俺の中に仕舞えるし。

 魔法のハイエースは、レンタカーってレベルではなくなってしまっている。


 あれ? これって異世界に盗難してしまったってこと?

 いやいやいや、だって俺もう、あの世界じゃ死んでるし。


 ってことは、法的には俺、人を跳ねても裁けないんでない?

 お、おお……


 いや、そういう問題ではない。

 人を跳ねたんだ。

 まずは状況確認をせねばなるまい。


 不安で頭がフワフワしながら、運転席を出る。

 そして、跳ねてしまった鬼王の方へ、小声で話しかけた。


「だ、大丈夫……? ……なわけないだろー」


 セルフツッコミする余裕を見せようとして、失敗。

 その後が続かない。


 あたりがシーンとしている。

 深夜だから見てる人が少ないのは仕方ないのかもしれないが、少なくともここには俺の知り合いは沢山いる。


 アイとか、ウルシャとかクオンとかカウフタンとかタツコとか。

 衛兵隊のみなさんもいる。


 全員が唖然としてこっちを見てる。

 ぎゃー、と叫んで去りたいけど、そこまで理性は飛んでない。


 俺は、この空気耐えられないから助けて、みたいな気持ちを込めてアイとウルシャの方を見ると、ふたりがスタスタとこっちに寄ってきた。

 なんか深刻そうな顔をしてこっちに近づいてくる。


 ひょっとして、俺がやったことって相当まずい?


「イセ、大丈夫か?」


「お、俺はかなり平気。で、でも……」


 倒れてピクリともしない鬼王の方を見る。


「……俺、王様、殺しちゃった」


 口にしたとたん、現実味が増して、ガタガタっと震えがくる。

 でも、そんな俺の心を救ってくれたのは、アイでも他のみんなでもなく、今見ている鬼王だった。


「そんなもんか」


 跳ね飛ばされて離れているのに、つぶやくような鬼王の声が聞こえて、むくりと立ち上がった。

 そして無傷って感じで、やれやれという風にあきれてみせている。


 良かった! 生きてた!!


「それで殺せるなら、今頃ナノスが鬼王だな」


 ああ、良かった。本当に良かった。

 異世界転生した途端、人殺しにならずに済んで良かった!


 これも剛術のおかげか?

 この世界の住人の丈夫さに感謝だ。


「単純な力は、大したことがないのか。それとも加減したのか? いや使い方がまだ分かっていないというのが本当に正解なようだな」


 鬼王はこちらを値踏みするような視線を向けて、言った。

 俺の良心的なピンチは免れたが、こっちはまだまだピンチだった。


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