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206話 初の接触

 トラックにぶつかり、ふっ飛ばされた瞬間、理解した。

 全身を強く打って死亡、という言葉を前の世界にいた時に交通事故のニュースで耳にしていたことを思い出す。


 ああ、これがその全身を強く打つってやつか。

 本当に体全体に衝撃が走るもんなんだな。


 そしてそこで意識がフッと途切れる。

 これは経験済みだった。


 だからだろうか。


 二度目は違った。

 意識が途切れない。


 ぼんやりと残り、周囲の音が聞こえてくる。

 なんとなく、周囲の様子がわかる。


 トラックのエンジン音や、鬼王の声、クオンやカウフタンやタツコの声や息遣いが聞こえてくる。


 そして、これははっきり聞こえた。


「ソロンッ!! 何しているっ!!!」


 アイの声が聞こえた。


 すこしくぐもったような声だった。

 水の中から聞いているような、少しだけ聞きづらい声。


 でも、はっきりと意識できた。


 俺が最初に耳にした声だ。

 この世界に来て、初めて聞いた声。


 俺にとっては救いの声だ。

 この声を聞くと、ぼんやりしていた意識がはっきりする。


 声の主と再び会うために、俺は意識をその場に留める。

 それができたからだろうか、聞き捨てならない言葉を聞いた。


「――だからアイちゃん、君をもらいに来た」


 それはダメだ。

 この声には敵意がある。

 アイに向けた害意がある。


 殺意に似たそれを鬼王はアイに向けた。

 それだけは許せない。


 だから俺は、再び俺の体を作り上げた。


『そう、それだ』


 誰かの声が聞こえた。

 アイや鬼王らの声と違い、それは頭の中に響く。


 タツコが俺に向かって念話を使うような感じに似ている。


『それでいい。そのままいけ。それが望みの形――』


 うるさい。


 その声はボリュームが大きく、頭に響くので聞こえないようにした。


 言われなくてもやってやる。

 彼はそれを望んでいる。

 俺も望んでいる。


 形を意識しながら、思い至る。

 さっきの声の主。


 あれがきっと、アイを『神器』にした『神』のヤツなんだろう。


 話したいことはある。

 聞きたいことは山ほどある。


 だが今は、かまっている暇はない。


 せいぜい利用されてやるから、黙っていてくれ。

 俺はこの、貰い物のふざけた『力』を使わせてもらう。


 その意思を示し返した時、『神』のやつは笑っているように感じた。




【幕間 その8】


 そこにいる誰もが驚いた。

 吹き飛ばされたはずのイセが立ち上がったのだ。


「イセッ!!」


 アイが声をあげた時、イセは殺意を鬼王に向けた。


「ん?」


 鬼王は油断していなかった。

 あの『竜』ですら弱体化させた異世界の戦士が、戦車にひかれたくらいで死ぬわけがないと。


 だが彼は、己に直接的に危害を加えようとする者がしばらくいなかったため、対応が遅れた。

 ほんの一瞬のことだが、間違いなく不意を打たれた。


 鬼王のイセへの警戒を、イセの行動がはるかに上回ったのだ。


「っ!?」


 イセの目の前に突然出現した戦車は、最初から全速力のようなスピードで鬼王を吹き飛ばした。


 ほんの少し前にイセが、ナノスの操る戦車に吹き飛ばされた時を、今度は鬼王が再現した。

 鬼王の体は宙を舞った後、勢いを殺せず地面をごろごろっと転がった。


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