205話 幕間 その7 『神』への道
「……イセ殿?」
ナノスが操り向かってくる戦車に、イセが立ち向かう。
イセにはあの鋼鉄の戦車がある。
今の今まで、『神器』同士の争いに対して手も足も出なかったアイが、イセの戦車を手に入れてから状況が大きく一変した。
そのことを、クオンは承知している。
敵対者の亜人たちが繰り出してきた戦車に対しても、イセが立ち向かっていなす。
これが当たり前という感覚だった。
だから、出遅れた。
クオンは、そしてタツコもカウフタンも、この瞬間にあの戦車をとっさに出すものと思っていた。
そして恐るべき突進力を見せる戦車に対して、イセの戦車がぶつかり耐える。
逆に押し返したり、姿形を変化させる力で相手の戦車を抑えつける。
クオンはそう思っていた。
だから、予想外だった。
ガツンッ――!!
何か重くて硬いものが、戦車にぶつかった音が鳴る。
ぶつかったものは吹き飛んで、それから地面で数回跳ね飛ばされていく。
それは地面に倒れ伏して、ピクリとも動かなかった。
動かないのは、召喚戦士イセ。
「イセ殿っ!?」
駆け寄ろうとしたクオンは、はね飛んだイセの体よりも先の方へ進み止まった戦車を見た。
戦車の操縦席から、こちらを睨んでいるナノス。
「もう終わりか? あっけないな」
ナノスの声に、クオンらの近くにいる鬼王が応える。
「まだ何か隠し持っているんじゃないかと思ったんだが……」
「もう一回ぶつけておこうか?」
「いや、死体でもいいから持って帰ろう」
淡々と話している亜人ふたり。
でもクオンは動けない。
ふたりに隙を見つけられない。
亜人は人間より生命体としては遥かに優れている。
筋力や反射神経等、肉体的能力はずっと上だ。
それを身にしみてわかっているクオンは、余計に動けなかった。
「じゃ、回収するぞ。うしろの鉄の箱にでも入れておく」
「ああ、そうしてくれ。んじゃ当初の予定通り、アイちゃんとタツコちゃん以外は始末しておくか。一番あっけない想定になったな」
鬼王がそう言い、それに応えるようにクオンとカウフタンとタツコが動こうとした時だった。
一羽の燕が、矢のように飛んできた。
燕は低く鋭く飛び、ナノスの乗る戦車の前で光の波紋となった。
それは魔力の波紋。
波紋に描かれているのは、魔法の文字の羅列。
クオンには見覚えがあった。
積層式魔法陣だ。
魔法は発動され、戦車の操縦席にいたナノスが直に食らう。
「あ゛――」
短い悲鳴と共に、輪っか状の操縦桿に突っ伏すナノス。
クオンは、ナノスの方を見て、それから飛んできた方を見た。
「ソロンッ!! 何しているっ!!!」
クオンは遠くからでもわかった。
月明かりしかなく、シルエットのみしか姿は確認できないが、誰なのか理解した。
最後の魔法使いにして『神器』アイだった。
護衛のウルシャと共に、クオンの主であるアイがいた。
アイが呼んだ鬼王ソロンは応える。
「俺も君と同じだ、アイちゃん。『神』になるために必要なことをしている」
「『神』になる? お前が? 『神器』であることにすら興味のなかったお前が?」
「ああ。俺は俺の『神器』が欲しいんだ。だからアイちゃん、君をもらいに来た」