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204話 交渉決裂

 鬼王とナノスを吹き飛ばす?

 キルケを吹き飛ばしたあのブレスか。

 あれ使うと、喉をやられるんじゃなかったっけ?


 そんな気持ちでタツコを見た時、俺は突き飛ばされた。


「ふぐっ!?」


 息が詰まるだろそれ、っていう勢いで突き飛ばしてきたのはクオンだ。

 俺の前にいて、鬼王から守るように立っていた彼女が、背中から跳ぶように俺を突き飛ばしてきたのだ。


 不意打ちを食らって目の前がぐらりと揺れた時、鬼王の姿が見えた。

 こっちを見て「ん?」という顔をしている。

 それが見えたのも一瞬のこと。

 鬼王の表情は、目の前を通り過ぎる魔力を帯びた突風で見えなくなった。


「ふっ!」


 その突風が巻き起こる瞬間、タツコの鋭い呼気が聞こえた。

 聞こえたのはそれだけ大きな音だったのだろう。


 あれは、天使たちと戦った時に見せた、タツコのブレスだ。

 人の体で使えるブレスは、天使たちと戦った時に見せたもの。

 あれを、今、鬼王とナノスに使った。


「よっと」


 そして突き飛ばされた俺は、クオンに腕を掴まれて、背中から転ばずに済んだ。

 タツコはクオンにも、あの俺の意識に働きかける念話のようなものを使っていたようだ。

 いや、クオンだけじゃなくて、カウフタンたちにも使っていたようだ。

 あの一瞬で、ほとんど巻き込まれずに、鬼王から距離をとっている。


 クオンに支えられた俺の目の前で、鬼王のいたあたりに舞う土煙と、タツコのブレスに吹き飛ばされて宙を舞っている亜人美人のナノス。


 一瞬、ナノスの表情が見える。

 ものすっごい悔しそうな、怒りに満ちた表情を見せてこっちを見た。


「くっそーっ!!」


 こっちに向かってナノスが言ったのは、タツコがこっちに来ていたからだ。

 ブレスを放った後、俺たちのところに跳んで来ていた。

 正確には、俺たちではなく、ツァルクの体を守るためだろうけど。


 後手に回っていた俺たちは、タツコによって反撃に移れた。

 俺は何もできていない。

 なんだこの超人軍団。俺の出る幕あるのか?


「イセ」


 タツコが俺のことを鋭く呼ぶ。

 それで思い出した。

 俺にできることがあった。

 あのトラックをかっさらうんだった。


 元の世界だと、人様のトラックを他人が勝手に乗るとか違法極まりないが、ここは異世界。

 ハリウッド映画のガンアクションやカンフーアクションものだと、車のひとつやふたつ余裕で盗む。

 ここでもそれだ。


 と、意を決して走りだそうとすると、腕を掴んでいたクオンに阻まれた。


「無理っす」


「え?」


「あれっす」


「だな」


 クオンとタツコは俺の方を見ていない。

 見ているのは、土煙の中で悠然と立っている鬼王だ。


「交渉決裂か。人間らとの交渉はそんなのばっかだな」


 人間同士でも、よくあることですよと言おうと思ったが、鬼王の殺気に飲まれた。

 そしてその殺気をまともに受けても、意に介さないのがひとり。


「いや、のってやってもいい」


 タツコが鬼王と話を続ける。


「『竜』が? お前が何を話す」


「我はもはや『竜』ではない」


「じゃあなんだ? 人間とでも言うのか?」


「タツコだ」


 あ、ひょっとしてこれ、俺たちが与えた名前が気に入った的な展開?


「交渉はこいつらじゃなくて我としろ」


「言葉が通じるようになったってことか。ならタツコちゃん、俺の下につくのかい?」


「いや」


「即答かよ。なら決裂」


 鬼王がにやりと笑うと、トラックのエンジン音が響いた。


「おい、我が王!! こいつら皆殺しでいいよな?」


 エンジン音に負けないくらいの大声が、トラックから聞こえた。

 すでに運転席に乗っているナノスは、窓ガラスを開けて声を張り上げていた。


 吹き飛ばされた後、トラックにすでに乗り込んでいたのか。


「ナノスちゃんは、みんなやっつけるつもりだったんじゃないの?」


 鬼王が応えて言うが、ナノスから返事はない。

 ただエンジン音がさらに響き、トラックがタイヤをぎゅるぎゅると回して急発進してきた。


「イセ殿っ、出番っすっ!」


「…………」


 言われるまでもない。

 自動車には自動車を当てるまで。

 そう思い、ハイエースを召喚しようとした。


 したが、もっと気になることができて、そっちの考えで頭がいっぱいになって呆然としてしまった。


 あれは……


「イセ殿っ!!」


 あの走り込んでくる姿は……


「おいイセっ!!」


 クオンの声も、タツコの声も、聞こえるがそっちに意識がいかない。


 ただ、あの光景と、今見えている光景がかぶる。


 あの走ってくるトラックは……

 あの時、あの差点で……


「俺に突っ込んできたトラックだ――」


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