200話 『神器』同士の争い
カウフタンがタツコに約束をした日も、その約束の日の昼間も、アイとは会えなかった。
なので食事の時間以外は、タツコから文字の教えを受けていた。
ぶっちゃけ、日本語や英語と違ってて難しい。
「イセ、頭悪いな」
「……お、おう」
特に感慨深くもなく、事実を事実として口にしたタツコに、俺は正直に応えた。
大学まで進んでおいてなんだが、俺は頭は良くないと自覚している。
進学を選んだのは、単に仕事せずに過ごせるならそれで、という気分だった。
というわけで誰が聞いても三流と言ってもいいくらいの大学へ進学した。
俺のモチベは低い。
意識低い系だ。
当然モテない。
この世界でも、モテ期は来ていない。
今この来世ですら俺の期待に応えられない俺の運命ってやつに、正直クレームを入れたい。
こんなに夢のない、かっこよくもない異世界転生者に生まれて俺は不幸だ。
いや、不幸の範疇にも入らなそうだ。
そんな者もいるということを、俺は骨身にしみた。
だってそれ、俺だもん!
「これなら、我がおぬしの力を使えるようになれるかもしれない。あるいはまったく全然違う、意識にすら入れられない法則があるかだが……」
タツコがなにやらぶつぶつと言っている。
俺の頭の悪いことが、何かヒントになったようで何よりだ。
……泣きそう。
「タツコのおかげで、このページは読めるようになったぞ」
「読んでみろ」
「進め進め、衛兵隊進め」
「だいたいあってるな」
子供向けの本なのに、衛兵隊について話している。
亡くなった前エジン公爵が作らせたものらしい。
ずいぶん、衛兵隊に期待していたようで。
子供の情操教育的にはどうなんだろう? と思いつつも頑張って続きを読んでいた。
それから夜になり、夕食をとった後、カウフタンからの連絡待ちをする。
タツコは、俺が使っているハイエースを体に仕舞う力を習得したい。
だから、俺がそれを使っているところを見たいわけだ。
俺ですらわからないこの力が、タツコの力で使えるならば、俺の力の分析に一役買うだろう。
アイにとっても、ケアニスにとっても、それは都合のいいことだろう。
実験動物にされている気分だが。
と考えていると、俺とタツコのいる部屋にたずねてくる者がいた。
外にいる衛兵たちとの会話は、かすかに聞こえてきた。
「イセ殿とタツコ様にお目通り願いたいっす」
声でわかったので、俺は衛兵たちに通して欲しいと頼んだ。
現れたのは、クオンだ。
肩に、自分より大きなものを担いでいる。
丈夫そうな袋に、柔らかい中身。
それは大きさや、動き方からして、人間が入っているように見えた。
「クオン、それなに?」
「捕まえたっす。殺してないっすよ」
死体になっていない意識のない人型のものがこの部屋に2つ。
ちょっと怖い。
「何? なんでそんなのこっちに持ってきたの?」
「亜人なんすよ。人の町に潜入するのがとても上手い亜人っす」
だから、こっちに持ってくるのが当たり前っすよね、と言いたげな感じで、疲れたので空いている椅子に座りました的態度でくつろぐクオン。
「その亜人がどうかしたのか?」
「タツコ様とイセ殿に見張っていて欲しいんす。なんでしたら、イセ殿の戦車の中に放り込んでおいて欲しいっすね」
「生きている亜人を?」
うなずくクオン。
敵の間者なら、実験の意味でもいいんじゃないっすかねーという態度だ。
「なるほど、気が利くな」
「利いてない! ちっとも利いてない!! なんだその人体実験!」
と突っ込んだが、俺のことは無視して、クオンは俺たちの部屋に用意してあるお茶を飲んだ後、俺とタツコにもお茶を出す。
「いずれ試さなきゃいけないっす。僕としては、生きている人で上手くいくなら、アイ様の緊急避難先として使えるので大助かりっす。タツコ様もそうっすよね?」
「ああ」
軽く人体実験というわけではなく、ふたりはふたりなりに考えてのことだったようだ。
俺としても、アイを守るためと言われては、認めざるをえない。
降参して、今夜俺がタツコに俺の力を見せる時に試すことを了承した。
「イセ殿、助かるっす。今はもう緊急事態っすから」
お茶を飲みながら、簡単なご飯を済ませているクオン。
「亜人がこの町に潜入しているくらいっすから。シガース殿と鬼王殿は手を組んで、ちょっかい出してくるっすよ」
「だろうなぁ……」
シガさんのガラケーには、あれから連絡はない。
ガラケーは、今は俺のところにはない。
俺やアイが持っていると、場所が割れる可能性がある、俺のいた世界にはそういう場所を特定する機能のついたものもあったと話し、今はカウフタンが用意した場所に保管している。
「タツコと戦う前に、あのガラケーと一緒に鬼王が現れたんだ。結構前から共闘してるだろう」
書き始めた時は、200話まで行くとは思ってなかったです。
読んでいただいて感謝です。
無秩序に進んでいるのは事実ですが、一応終わりは考えてはいます。
ひとまず書く時間と気力が続く限り、書こうと思います。
よろしくおねがいします。