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199話 『神器』の価値

 『神器』に選ばれる時がある。


 アイやシガさん、キルケやケアニス、鬼王にタツコ。

 それぞれが、それぞれ、別の機会に『神器』に選ばれた。


 もしかしたら、キルケやケアニスは、生まれながらにだったかもしれない。

 天使だし。


 だが、他は違うはずだ。

 タツコは、鬼王による召喚後に選ばれたっぽい。


 『神器』になった時、どんなことがあったのが。

 『神』に直接会ったのか。

 それとも、なんか頭の中に語りかけてきたり、俺がハイエースを使える時のように『力』の使い方が直感的にわかるように『神器』と理解したのか。

 そのあたりを、アイに聞いてみることにした。


 タツコと同じ部屋で寝た後、俺は衛兵隊の兵士に頼んで、アイのいるAI機関分室へ訪れた。

 俺が来ていることを聞いたら、ウルシャがわざわざ出てきてくれた。


「アイ様は今は会えない」


「何故?」


 ウルシャは、少しだけ躊躇しつつも応えてくれた。


「アイ様の魔法は、アイ様ご自身が自ら準備しなければならないものだ。しばらくAI機関から離れていたので、これから使う魔法の準備も必要なのだ」


「……なるほど」


 魔法を使うにはそれだけ時間と手間が掛かっているのはわかる。

 元々使えていた土台となる『魔法』がない世界で、そこから構築して魔法を使っているのがアイだ。

 俺のようにハイエースがあるから、魔法に似た力が使えるというわけではない。


「アイ様ご自身のお体にも負担が掛かっている……」


「なら早く魔法を使えるようになるっていう『魔法』の構築、できるといいな」


「……そうだな」


 少しだけ逡巡した様子を見せたウルシャ。

 きっとアイの心配と、アイ自身の望みとの間で、ウルシャには葛藤があるのだろう。

 彼女の望みを優先するべきか、彼女自身を優先するべきか。

 それは『神器』アイの護衛として、ウルシャが考え続けなければならないこと、なのだろう。


「んじゃ、時間が空いたら俺が聞きたいことがあるって言ってたと伝えておいて」


「わかった。なんなら伝言しておくか?」


「……いや、直接聞きたい」


 そばにいるウルシャに聞けば何かわかるかもしれないと思ったが、言わないでおいた。

 そういえば……ウルシャって『神器』になった頃からの護衛なのか、それとも魔法使いのアイの護衛なのか。

 そのあたりも、後で聞いてみようかと思う。


 しかし次の日も、アイには会えなかった。

 同室のタツコは、黙ってジッと未だに復活できない初代教皇の人を見てるだけ。

 話しかけづらいし、話すことも無理にひねり出すくらいしかできず。


 ということで暇なので、俺たちの部屋を護衛している衛兵に、本を貸してくれと頼んだ。

 文字がわからないので、子供向けの簡単なものをと要求しておいた。


 でも頼んだのにその日には本は来なかった。

 そして、夕食後しばらくして寝ようかって頃に、タツコが話しかけてきた。


「イセが力を使うところ、いつ見せてくれるのか?」


 そういえば言われたのを忘れていた。


「んじゃ、カウフタンにできる場所の用意を頼んでみようか」


 俺は就寝前に、衛兵にそのことを隊長代理に頼んで欲しいと伝えた。

 すると次の日の朝食後には、カウフタン自ら来て事情を聞いてきた。


「タツコが、俺の力を見て使い方を覚えたいんだそうだ」


「イセの言うことは間違いありませんか?」


 俺に聞いておいて、タツコに尋ねるカウフタンは失礼だ。

 可愛い女の子じゃなければ、不機嫌になっているところだ。


 タツコがうなずくと、カウフタンがはっきりと口にする。


「警護の準備に時間がかかります。明日の夜までには手配しますのでお待ちいただけますか?」


「構わない。待つのは慣れている」


「ありがとうございます。では、明日の夜、町の外で行いましょう」


 あれ? 断られるかなと思ってたんだが……


「……お前の頼みだったら聞けないが、タツコ様ならば話は別だ」


 俺の顔色を見て、考えていることに気づかれた。


「それは、『竜』に暴れられたら迷惑だからか?」


「迷惑どころの話ではないが、理由はそれではない。『神器』だからだ。アイ様の望みには出来る限り応えるのと同じことだ」


 それからカウフタンは、タツコに対して微笑みかけた。


「タツコ様は『神器』というお立場であるにも関わらず、我々にとても協力して頂いている。こちらに出来ることがあればご遠慮なくおっしゃっていただきたい」


「わかった」


 タツコの返事はそっけない。

 でも、何となくだが好感を持っているように見えた。


「で、お前が頼んでいたものはこれでいいか? うちの子がもっと幼い頃にあげたものだが」


 それは装丁が豪華な感じの絵本だった。

 ぱらぱらとめくると、確かに丁度いいかもしれない。


「ありがとう……ってこれでも読めないんだけどな。護衛の人に聞いてもいい?」


「なら、お前用の教育係を用意しよう」


「我が教えよう」


 突然タツコが言い出して、俺もカウフタンも、そこにいて話が聞こえていた護衛たちもギョッとした。


「我も教えてもらうのだ。人の文字くらい教えてやる」


「助かる」


 会話ができず、ふたりして沈黙していることが多い部屋にいるのは居心地悪かったので、話すきっかけがあるのは本当に助かる。


「……ずいぶんと気に入られたな」


 カウフタンは独り言は、俺にもタツコにも聞こえた。


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