19話 全員の奮闘
西門にいた衛兵たちは、ハイエースにも怯まず突っ込んできて、その前に立つ、アイとウルシャに襲いかかろうとする。
だが、その彼らに向かってウルシャが手にする細身の剣が閃く。
「シッ!!」
鋭く呼吸の音をさせて突き出された切っ先が、近づく衛兵3人に繰り出される。
それぞれ1撃目を受けて動きを止め、鎧の隙間をいくつも貫かれたのか、体の節々から血を吹き出したかのようにして倒れた。
ほぼ3人同時の現象に、突っ込んできた衛兵たち全員、足を止める。
「次!」
まるで剣の師範のような命令に、怯んでいる衛兵たち。
鍛えられた剣技から、実力の差は誰の目にも明らかだった。
そんな中、ひとり冷静なウルシャは油断なく剣を構える。
隙のないその後ろ姿は、とても綺麗だった。
俺は、初めて会ったあの時、この剣を受けなくてほんとに良かったと思った。
調子にのって鬼じゃなくて自分が戦うとかやっていたら、同じように血まみれだったろう。
「来ないのか?」
ウルシャが前に半歩出ると、衛兵たちは1歩2歩と下がる。
あとは焦って出てくる者を切り伏せるだけ、と予定調和のようにジリジリと前に出るウルシャ。
自信満々に出ていっただけある。そう思わせる次元の違う剣技だった。
「うおおぉぉ!!」
しかし、敵は前だけではない。
西門は前だが、この町全部が敵地であるから、どこからでも敵は現れる。
別のところから来た衛兵たちが、ウルシャたちに迫る。
正々堂々と正面からならウルシャの剣技は有効だが、卑怯な集団での不意打ちならどうか?
焦る俺は、彼らとウルシャたちの間に車体を挟もうとしてアクセルを踏もうとしたのだが……
「えいっ!!」
かわいい子供っぽい女の子の声がした。声の主はアイ。
子供っぽいというより、見るからに幼女の声。
しかし、俺にはわかった。
アイの大声と共に、彼女の体から溢れ出る魔力。それはアイの魔法だ。
魔力がバケツの水を撒いたかのように宙を舞い、横から来た衛兵たちに降りかかる。
「おおおおおっ!!」
それでも衛兵たちは足を止めない。
魔法が失敗した? と思ったが、アイに変化はなく、ウルシャは正面の衛兵たちへの威嚇を止めていない。
彼女たちがその場を動くことなく、横から迫った衛兵たちはただ素通りして、町中へと走り戻っていく。
「……なんだ?」
「彼らの認識を魔法で変えた。アイたちを排除しようと必死だったが、今は家族に愛してると伝えるために必死になっている!」
「さすがアイ様。素晴らしいお心遣いです」
「彼らにも家族がいるからな」
いい話っぽく言ってるが、洗脳だ。
アイの魔法はやばい。そして使い方を間違っていて助かる。
何故、こんないい子が、こんなえげつない魔法を使えるようになったのか、ほんと不思議だ。
その辺はともかく、アイとウルシャが自信満々に前に出た根拠を見た。
もし俺がいなくても、ふたりでなんとかしようとしていたんだろう。
それくらい、ふたりは強いと感じた。
そして、走り去っていく衛兵たちと交代するかのように走ってきた鬼9匹。
ハイエースの後ろに整列しているのが、バックミラーに見えた。
どいつもこいつも傷だらけで、矢も刺さりっぱなしのもいる。
だが全員無事に戻ってきた。
「よくやった。戻って休んでくれ」
休みというのがこの魔法の鬼たちにあるのかどうかわからぬが、ふっと気をぬいたように見えたのは間違いじゃないだろう。
ひと仕事を終えた肉体労働者のような気さくさで、ぞろぞろと後部座席へ乗り込んでいく。
「あ……んんんん……」
その音に気づいたのか、後部座席に座っていた公爵令嬢が起きた。
「あ……」
次から次へと入ってきて消えていく鬼たちを見て、またかくんと気絶した。
3度目だ。もうトラウマになってるかもしれない。どうしよう。
そんなことに気づかず、西門を守る衛兵たちを無力化していくアイとウルシャ。
彼女たちの活躍で、ここをクリアできそうだ。
そう思った時、かこんと天井に何かが当たった。
そこからさらに、がこがこがこっと何かが当たり続ける。
フロントガラスから見にくい上を見ると、城壁の上から矢を撃っている衛兵たちが見えた。
上は想定してしかるべきだった。
でも、矢くらいならハイエースの装甲、いけるんだな。
この辺は、魔法の力だからかもしれないけど。
だが、上からバリスタでも撃たれたらどうしよう? まずいか?
アイとウルシャも当然、ハイエースが攻撃を受けていることに気づいた。
「私が登って殲滅してくる」
その声が聞こえた瞬間、アイがウルシャにしがみつく。
「だめだ! それじゃウルシャが残ることになる!!」
「アイ様……しかし……」
「ウルシャは最後までアイを守るんだ! そう約束した!! こんなところに残るなんて許さない
!!」
俺たちを逃がすために、ウルシャは残って最後まで戦う気だった。
それに気づいたアイは、必死に止めている。
「なら、鬼をだそう」
消耗しているが、なんとかなるだろう。
だが、自分の『力』だから、なんとなく認識できる。
ここに鬼を残したら、二度と使えないかもしれない、と。
アイもそのことに気づいた様子だが、止めない。
ウルシャと鬼たちでは、ウルシャの方を優先させるだろうし、俺だってそうだ。
出会って間もないが、彼女の無事のために鬼を使い捨てにすることは惜しくない。
そう考えていた時、上から何かが大きなものが降ってきて、地面にどしゃっと落ちた。
それは衛兵だった。
受け身も取れずおちて死んではいないが、動けないほど苦しんでいる。
そこからひとり、ふたりと落ちてきた。
撃たれていた矢も止まる。
上を見ると、ひょこっと顔を出した女の子(?)が、手を振った。
誰? と思ったが、アイとウルシャは躊躇せず、ハイエースに戻ってきた。
「よし、大丈夫だ。出してくれ」
あの子は誰なのか説明はない。
だが、すぐに思い至る。あれが城下町に潜入させていた間者? そのひとり?
「イセ。行け!!」
アイとウルシャの声に、俺はアクセルを踏む。
半開きになっていた西門へ車体ごと突っ込む。
ふたりが信頼するあの間者のように、俺も信頼に足るだけの力を見せねばと思い、フルパワーを出せとばかりにアクセルを踏みこんだ。
すると、ハイエースは門を無理矢理こじ開け、町の外へ出た。
「逃げるぞ!!」
急発進するハイエースは、町の外へと走る。
街乗りのように気を使う必要はない。アクセルべた踏みで加速を続け、あっと言う間に西門から離れていく。
ここでバリスタに狙われるわけにもいかないから、一気に突き放す。
バックミラーを見ると、町から追ってくるような影はない。
油断せず加速は続けたままだが、俺は勝利を確信した。
「よっしっ!!」
思わず出たガッツポーズに、アイとウルシャも続いて声をあげてくれた。




