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1話 転生した先で出会ったアイ

多分、平凡な文系学生であった俺の名前は、伊勢いせまこと


歳の頃は、あともう少しで21歳になる20歳。


異世界転生をしたということは死んだということなので、つまり享年20歳となる。


死因は全身を強く打っての全身打撲ってやつだろう。


即死だったのか、事故後に病院へ搬送中に死んだのか、わからないくらいその時に意識不明になった。


事故の瞬間は覚えている。


慣れない車の運転中、交差点で左折待ちをしているところに正面からトラックに追突されたのだ。


体に衝撃を覚えるまで、まったくリアリティを感じなかった。


あ、トラックがこっちに突っ込んでくるなーと思ってたら、目の前がガタガタになるほどの衝撃を覚えて、それからしばらくして死んだことを自覚した。


そんな感じだろう。


だろう、と曖昧な言い方だが、死んだ後のことはまったくわからないから仕方ない。


全部予想だ。


だが死んだことは間違いない。


何故なら、俺は第二の人生を歩みだそうとしていたからだ。





目の前にいる少女、というより幼女は堂々と腰に手を当てながら告げた。


「もう一度話すと、おぬしはさっき死んだ。そして今、ここにいます」


「はい。理解しました」


「うん、よろしい。死んだおぬしの魂的なものを、アイが拾ってここに転生させました」


「アイ? 英語で言う私?」


「アイはアイだ」


どうやら、この幼女はアイと言うらしい。


「アイさんですか」


「うん。拾ってやったので感謝して欲しい。あ、でも別に感謝を形にして欲しいわけじゃないから」


何を言っているのかよくわからないので首をかしげた。


「そちらの世界でも、感謝や謝罪の気持ちっていうのは形にするって聞いたんだが違うのか? お金とか菓子折りとか、心の籠もった手紙とか」


「あ、はい、そうです。そういうものあります」


そういうのとは縁のない生活を送っていましたが、あります。


そういえば、転生する直前、車を運転していたのは、その手のを期待してのものだった。


引っ越しの手伝いをって話で、仲間内で免許持ってるからってレンタカーでワゴン車借りて、そいつん家へ久しぶりの運転でおっかなびっくり転がしていたんだっけ。


不安がって運転していたから、変なところに止まってて、追突されたのかもなぁ……


「……はぁ」


「どうした?」


「死ぬ前のこと思い出した。引っ越しの手伝いをしてくれれば焼き肉おごってやるって話で重い腰を上げたんだったなぁって」


「……?」


首をかしげた幼女がやけに可愛い。


アイという名の幼女。歳のころはそれくらいだが、見た目だけかな?


アイちゃん? いや、なんか言動的に偉そうだから、ちゃん付けはまずいか。


アイさん? まあこの辺で。


「アイさん? それで俺はなんでここにいるんでしょう? あ、アイさんが俺を転生させたっていうのは理解したので、その転生させた理由の方が知りたいんだけど……」


「むむ。理解が早いな。驚かないのか? わー、なんだこれー、とか。これってオレが暮らしていたところと全然違うぞーとか」


「そう言われてみると、落ち着いてる。なんでかわからんですね。でも、その転生された理由の方が、今一番知りたいことかも」


「なるほど。冷静なわけだ。さすが転生者に選ばれたことだけある。わかった教えよう。なにゆえにアイの下に転生したのかを」


もったいつけた言い回しが出てきたので、黙って聞くことにしよう。


「すなわち。おぬしは、アイの力になるために、転生したのだ」


と、胸を張って堂々と言う姿は、拙くて可愛い。


もし孫だったら目に入れても痛くないくらい可愛がっただろう。


そういう気持ちがよくわかる。しかし……


「アイさんの力って、具体的に俺はどんなことをすればいいんでしょう?」


「知らん」


「は?」


……思わず出てしまった『は?』


実際の生活でこれをすると、とても嫌な顔をされるが、こうやって思わず出てしまうほどの状況というのもある。


「アイは知らない。それはおぬしが知っている。おぬしは転生者だからな。生前に関係する能力を持っているはずだ。それでアイの力になるわけだな」


「なるほど」


生前に関する能力……あの英霊とか宝具とか、そんな感じの?


「……俺の能力? ってなんだ?」


「知らん。ないのか?」


「…………」


俺の能力ってなんだろう?


大学受験時に得意科目は社会科全般ってくらいで、他はどれもお察しくださいって感じだし。


運動は特に得意なものもなく、習い事も大したことはやってない。


転生して得られるような能力って、何があった?


「……人当たりがいい性格?」


考えていたら、大学受験の時の面接の練習で思いついたことを口にした。


「それ、能力なのか?」


「違う」


面接の自己アピールで通用しない答えを出してしまったようだ。


「いやしかしな。あるはずなんだ。能力が。だってそうでないと、転生されるわけがないから」


そう言われても、思いつくものがない。


うーんと唸って黙っていたところで、ふと気づく。


「とりあえず、これ解いてくれない?」


鎖に繋がれていたので要求したら、すぐに外してくれた。


「すごい力があった時に、押さえつけるものがないと危険だったから。許してくれ」


「別に、気にしてないから」


しかし、厳重に鎖に繋がれるほどの力が俺にあると。


アイは本気でそう思ってたみたいだ。


「力……力ねぇ……ん?」


ポケットに手をいれ、カードが入っていたので取り出す。


それは俺の運転免許証だった。伊勢誠って書いてあって、人相が微妙な写真付き。


その免許証を手にして見ていると、自分の体の内側に『力』があることに気づく。


「ひょっとして……『これ』のことか?」


「お! もしかして能力がわかったのか?」


「ああ……おそらく……」


俺はその『力』が何なのかわからない。だが、その力の象徴たる名前は頭の中に明確に浮かんだ。


唱えれば、それは目の前に現れる。


「今から出すぞ、いいか?」


「おっ!? そこのおぬしがいた中央の魔法陣。あの中心に向かって出してみてくれ。そこならきっと力が発現しても大丈夫だ」


「よし、では行くぞ」


「あっ、待って待って! なんか大きな破壊的な能力じゃないよな? ここで大爆発してキノコ状の煙が上がったりするようなものじゃないよな?」


「大丈夫だ。そういうものじゃないから。多分。兵器とか火薬とかとは無縁なごく平凡な日本人だったから」


大丈夫と言いつつ、多分と付け加える俺に、若干の不安を感じてる様子がありありとわかるが、それでも俺自身がこの『力』を試したかった。


「よし、いくぞ!」


免許証によって導き出された内なる俺の『力』が湧き出してくる。


それはまるで閃光のような強い光として俺には感じられた。


「すごい! このエネルギーは通常の5倍……いや、もっとあるぞ!?」


何が通常かわからないが、アイが驚いている。だが止められない。


俺は導かれるままに、その『力』の『言葉』を口にする。


「いでよ! 『至高なる(エース・オブ)鋼鉄の移動要塞(・ハイエース)』!!」


光の奔流と共に、俺の目の前に現れる、その力――


魔力の渦が、その力を形にする。


その形は――


「これは……おぬしの世界の……自動車、か?」


そのとおり。これは車だ。


「ワゴン車と言ったか?」


そう、ワゴン車だ。町中でよく見かけたあのシンプルに四角いあのワゴン車だ。


「……なにこれ、ハイエースじゃん」


俺の力の正体は、事故にあった時に乗っていたレンタカーのハイエースだった。


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