198話 『神器』に選ばれること
『神器』の召喚した者が、『神器』に選ばれることもある。
その例が同じ部屋にいて、目の前でくつろいでいる元『竜』のタツコだ。
今、ご本人がそう言った。
嘘や間違いである、わけではなさそうだ。
ではタツコが例外そのものであることはないだろうか?
召喚者は『神器』に選ばれる可能性があるってだけで、なるとは限らない。
「驚いたのか?」
「そ、そりゃ……俺が『神器』に?」
「ああ」
タツコは無表情で当たり前のようにうなずいた。
「我はこの世界の者ではあるが、遠い過去から来た『竜』だ。なのに『神器』に選ばれた。この世界では規格外の『神器』たちと同列なのは少し不愉快ではあったがな」
不愉快という言葉は淡々と紡がれ、感情はこもっていないように聞こえた。
『竜』だったころの不愉快さ、なのかもしれない。
「だが我以上の規格外はおぬしだ。この世界の外から来て、この世界の理から外れたことをその仕組みもわからず使えるイセは、我からすれば『神器』の資格十分だと思う」
「そ、それは、評価高すぎ。俺には世界を背負う気はさらさらない」
アイがそうしたいから、手伝っているだけだ。
「我もだ。だがイセの場合は自己評価が低いな。まあそういうのもいる」
そういうと言った時に、ツァルクの方を見た。
タツコの中では、彼はそういう人物だったようだ。
「では仮の話だ。おぬしが『神器』に選ばれたとして、その時アイに協力するか?」
俺はうなずいた。
それは即答できる。
「アイに協力するって約束したから」
「約束は大事だな。だが我は召喚主のソロンから離れた。召喚された後、契約などに縛られたが、我には通じなかった。おぬしも召喚されたからといって、召喚主に縛られているわけではない」
「アイはそういうことはしなかった」
「なら、アイから離れることは可能だ」
「…………」
俺は、アイから離れる可能性がある。
タツコのように、離れて独自で『神器』として活動し始める可能性が……ある?
ひとつ疑問に思って、挙手をする。
「タツコは、いったいどうやって『神器』に選ばれたんだ?」
「……ん?」
タツコは俺の質問に対して、また表情を変えてみせた。
竜騎士ツァルクの話をした時は、楽しげな微笑みだった。
そして今は、驚きの表情だった。
「選んだのは? 天界……のわけないか。なら『神』だよね?」
「選んだのは『神』だ。間違いない」
「『神』に直接言われた?」
そういうものなのかどうか。
『神』がいて、声をかけてくるのか?
『神』に仕えていたであろう天界のキルケやケアニスも、直接会って選ばれた?
「…………」
タツコは、驚いた顔のまま、少し黙っている。
そして、少し眉を歪ませつつ口にした。
「いつ? どこで? どうやって我は『神器』と自覚したんだ?」
タツコはその疑問に対して明らかに不快さを示した。
それは俺にも伝染した。
「『神』には直接会っていない?」
「『神器』として一堂に会した時にいた……はずだ」
「その時に『神』に謁見した?」
「存在はしていた。だが……」
「……だが?」
「記憶は曖昧だ。モヤがかかっているように、そのあたりを思い出せない」
これは追及すべきことではないかと感じた。
『神』を目指している『神器』が、『神』について曖昧では……
「タツコ。嫌かもしれないが、アイの魔法を使ってその記憶を取り戻さないか?」
「…………」
タツコは俺の提案に対しても、不快な反応を示した。
「記憶を探られるのは嫌だろう。だがもし解明すれば『神器』同士の争いを終わらせるヒントになるかもしれない」
「……だろうな」
俺の発言に対して、タツコも同意した。
「だが断る。そういうことなら、アイに頼め」
確かにそうだ。
アイに『神器』になった時、どんなことがあったのかを直接聞いてみよう。