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191話 伝説の続き

 問題発言で、俺は窮地に立たされた。

 アイは言った。


 流石のイセも、死体までは女の子に変えないさ、と。


 流石の、というのは、あのとんでもない奴であるところの、くらいの意味だ。

 とんでもないと言われて、否定できる材料はない。


 魔法の力で走ったり、おにゃのこ化光線を出すハイエースを出し入れする人間が、普通とは言えない。

 これは否定できない。


 そして、そこから続く恐ろしい言葉。

 死体までは女の子に変えない。


 意味がわからない。

 が、俺は今まで2人、女の子に変えた。


 ひとりは、衛兵隊長カウフマン。

 戦士として、指揮官として、超優秀な軍人。


 もうひとりは『竜』

 『神器』たちが全力で立ち向かっても倒せない世界最強の生物。


 そんなすごいのを、俺は女の子に変えてしまったのだ。

 俺というより、俺の操るハイエースが、だ。


 堕天使ケアニスが前に言っていた。

 その力は生物だけではなく、無機物にも及ぶ、と。


 仮にそうだとして。

 俺は流石にそんなものまで、女の子に変える気持ちはない。


 なのに、その可能性を、アイは示してしまった。

 不用意なひと言だったと、猛省して欲しい。


 俺は……死体をおにゃのこに変えることができる……?

 そんなすごいことができる……?


 という驚きをもって自らの力の恐ろしさに震えた瞬間、背筋も凍る視線を感じた。


 まるで汚らわしいものでも見るかのような視線を、この場にいる女性陣から感じる。


 その中から、こいつを生かしておいては危険すぎるのでは、という殺意以上の排除の気配を漂わせている者もいる。

 もしここにキルケがいたら、ふたりがかりで俺に襲いかかってきたに違いない。


 そして、ひきまくっているのもいる。

 こいつそこまでするの? そんな変態なの? みたいな、ある意味とても正常な反応をするのがいる。


 今まで、この『神器』同士の戦いの中のキーパーソンみたいに語ってきた人たちが、明らかに汚らわしい異物を見るかのように、一瞬で変わった。


「……え? な、何これ?」


 戸惑う俺は、この状況を作った現況を見る。

 見た瞬間、彼女の無邪気な笑顔に陰りが生まれる。

 だんだんと、血の気がひいているアイ。


「おい、おいおいおい、そんなまさかっ!? まさかやる気だったのかっ!?」


「考えもしなかったわっ! お、お前が言い出したんだぞっ!」


「え? だって、ほら、お前、だいたいそんな感じでやってるじゃないか」


「やってない! 全然そんな、曖昧な感じで、とんでもないことやってないぞっ! すっごい、すんごい踏ん張って、気合い入れて、緊急事態で、アイたちを助けようと頑張って、何とかしようとしてた時しかやってない!」


 自分で言って、そうだそうだと自信が出てきた。


「だいたい、みんなハイエースの後ろに乗ってるだろ? みんなおにゃのこ化してるか? して……あ、女の子しか乗せてない?」


 ちょっと考える……


「……あ、違う。乗せてる。ほら、今ここにあるキャンプ道具? 野営道具か。こいつらだって、今ごろおにゃのこ化してるぞ!!」


 そうだそうだ、と俺の中でさらに納得する。


「この道具類が、全部おにゃのこ化? なんだそれ! キャンプブームだったとしても、そんなものをおにゃのこ化するとか、意味わからん! ニッチな感性過ぎて、誰も興味ないぞっ!」


 言いながら、ヒートアップする。


「野営道具がみんなおにゃのこ化して、どんな需要があるというんだ! そんなのエッチシーンになったら、アオカンしかしないコンセプトになるくらいしか思いつかんぞ! 付喪神にもほどがある! そんなのに需要なんてない!!」


 と、まるで、新たに世に出てこようとしたニッチジャンルを潰す古い地球人のようなセリフが、俺の口から紡がれた。

 謎の新ジャンルを否定してすまぬが、少なくともここで俺は否定しないと、この先ずっとこの異物や汚物を見るような視線にさらされるのだ。

 必死なんだ!!


「……こいつ何を言っているんだ?」


「わからない……」


「彼の世界の言語、ではないっすかね」


 異次元語を話す、異世界人になってしまった。

 正解だけど、俺が求めているものとは完全に遠ざかっている。


「アイ、イセは大丈夫なのか?」


 ことの発端となった元『竜』のタツコが、アイに聞く。

 聞かれたアイは……


「…………」


 沈黙だった。


「だ、黙らないでくれ」


「お、おう。だ、大丈夫だ。今までだって色々あったけど、だいたいイセが何とかしてくれた。これからもきっと何とかしてくれる。多分」


「そこまで根拠薄弱にならなくてもいいじゃないかっ」


 もうつらい。

 俺、ずっとこうなの?


 とがっかりした時だった。


「死体を我のように変えるか。そういうことならどうだろうな」


 タツコが話だし、皆が耳を傾ける。


「これは死体ではないからな」


 タツコははっきり言った。

 でも、どう見ても、死んでからかなり経過している姿だった。

 腐乱はしていないが、とても生きているとは思えない。


 強いて言うなら、写真や映像等で見たことがあるミイラみたいだった。


「死体ではない、よな?」


 タツコが確認するかのように聞いた先にいた、ケアニスが応えた。


「そうですね。仮死状態です」


「仮死?」


「はい。教会で保存している聖遺骸とはまったく違うものです。それでは『竜』と同じ力を引き出すには条件が足りませんから」


 アイの疑問に、ケアニスは解説を続ける。


「死体ではなく仮死状態のミイラとなると、イセさんの個性的な性癖によって破廉恥でヨコシマな欲望の対象にはなりえない、と思います」


 ケアニスの、恐ろしい解説に対して、びっくり眼なのは俺だけだった。

 俺以外は「それなら大丈夫か」とホッとしたような顔をしていた。

 まったく納得いかない。


「仮死ということは、蘇ることが可能なんだな」


 アイが、はっきりと口にする。

 その言葉は、タツコとケアニスが、考えていたことだったようで、ふたりはアイに対して肯定したように見えた。


「蘇るのか。初代教皇にして伝説の竜騎士ツァルクが……」


 そう口にするアイに、今度は皆が息を飲む。


 俺の特殊性癖疑惑の話題が、かき消されるほどの驚きを持って迎えられた真実に、タツコは軽く返事をした。


「ああ、そうだ」


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