188話 暗躍主との断絶
「師匠! 何考えてんだ!!」
受話器の向こうで戸惑っているのが容易に想像つく。
「は? 開口早々なんだ」
「『竜』と教皇庁との関係、隠してただろ!」
「わからん。ほんとわからん。いったい何の話をしてんだ?」
「とぼけるのか。こんなちっちゃくなったからって師匠の頭脳が変わらないことは、わかっているんだぞ」
とぼけていない。
本気で困惑している。
「……こっちが聞きたいことが山程あるんだが……まあ話してくれ、出来る限り手短に」
シガさんが、大人の対応をした。
「『竜』と教皇庁が関係しているのはわかるぞ。伝説の竜騎士と初代教皇は同一人物とも、同じ血筋の者とも言われていたからな」
お、そうだったのか。
「だがまさか、未だにその繋がりが保たれているなんて、そんなもの同士をぶつけようとするなんて――」
「ちょっと待て」
「ん?」
「今、何て言った?」
「え?」
「繋がりが保たれている? あの『竜』と教皇庁に繋がりがありそうなのはわかるが……伝説の竜騎士と『竜』にどんな関係があるか分かったのか?」
「……あ」
あからさまに、アイが動揺している。
何かよくないことを口走ってしまったようだ。
おそらく……
あの『竜』を今の姿……タツコにする前に使った魔法だ。
あの精神操作魔法で、アイだけが知ったことに絡むことだ。
そうか……アイは、あのタツコが大切に抱えるアレについて、詳しく知っている可能性があるのか……
ケアニスといい、『神器』っていうのは隠しごとを色々抱えているんだな。
まあ、その辺はおいおい聞くとして……
「アイ、交代」
言いながら、アイからガラケーを取り上げた。
「シガさん、おはようございます。イセです」
取り上げて話しかけながら、アイと代われとか言われる前に切り出す。
「直接これで話すのも何なので、今からそっちに向かいます。車ならすぐ着きますから」
「待った。それはやめてくれ」
シガさんは、あっけにとられつつも、速攻で拒絶してきた。
「そっちのメンツ、アイたちにケアニス、イセ……それに『竜』がいるだろ? 色々ヤバい」
その色々ヤバいメンツごと、匿ってもらうつもりだった。
その影響がどう出るのか、サミュエル自治領で見てからなら、他の方針が打ち出せるかもしれないし。
っていう、思いつきの方針は、シガさんによって打ち消されてしまった。
「『天界』や教会と、ウチが直接対立するのは避けたい。表面的にはお互いに尊重しあって助け合って、今のボロボロになった帝国を支えている体だからな」
「それに巻き込んでおいて、ずるい」
「サミュエルくんみたいなことを言うな。とにかくあの天使たちと直接ガチで殴り合える連中を、こっちに置くわけにはいかん」
それを思いっきり促したのはそっちじゃないか……いや。
これは何かある。
このシガースという人が、俺たちを簡単に手放すとは思えない。
またあの手この手で、『竜』退治の時のようにどこかで仕掛けてくる。
『神器』が3人に、イレギュラーな俺というカードがあることを知って、何もしない人じゃない。
だったら……
「わかりました。ではこちらから話せることはないです」
「え? お、おい……」
「特になければ電話きりますよ」
「待て! こっちには話したいことがあるんだ! そっちの事情なんにもわからんのだぞ。支援するにも情報がいる」
「その支援を受けたいけど、こっちの準備もあるので。また『竜』の時みたいにぶっつけ本番は危険過ぎる。こちらもそういう対応の準備時間をください」
「…………」
「連絡は、このガラケーでお願いします。この世界だと、ガラケーは便利ですね」
「……ああ、まったく。こっちの世界は便利で……めんどくさいよ」
そのめんどくさい、というのは俺のことか?
「ではまた。連絡よろしくです」
通話を切る。
「あ、おい。師匠は? 師匠は何て言ってた?」
「シガさん、なんかまたこっちにとって不利益になりそうなこと、企んでる感じがしたから話すのやめた」
俺は、こちらから連絡を断ったことを、素直に告げた。