187話 これからどこへ向かうのか
ほんのりと寒くて目が覚めると、すでに朝だった。
アイはいないし、後部座席で寝ていたウルシャとクオンもいない。
のそのそと外に出ると、野営の準備の整った空間ができていた。
そこでぼーっとしながら、温かい何かを飲んでいるアイ。
クオンは食事の準備をしていて、ウルシャはいつものように護衛をしている。
カウフタンが、野営の片隅で座って寝ているのは、寝ずの番をしていたからだろう。
「おはよう」
皆に挨拶すると、挨拶がかえってきた。
アイにすすめられて座り、温かい茶をうけとって飲む。
「……美味い」
言うとクオンが微笑んだ。
としばらくのんびりとキャンプ場の朝みたいな空気で過ごした。
このまったりムードは、昨日の疲れが何となく残っているからか。
あれだけ派手に暴れたんだから、そりゃそうだろう。
ケアニスを助けるという目的は、一応達成されたわけだし。
「ところでケアニスは? あとタツコも」
「しばらく近くにいたが、ふたりとも私の視界の外に行ってしまった」
寝ていると思っていたカウフタンが、目を閉じたまま応えてくれた。
「すぐ戻ってくる。ふたりにとって我々は重要だろうからな」
あの天界を手玉にとったり、帝都に人類そのものを手玉にとったりするふたりにとって重要人物になっているのは……少々遺憾だ。
あんなのと比べられたくない。
「しかし、これからどうするかな」
ゆったりとした朝食を終えて、ここからどうするのか、移動するにしてもどこに向かうのか。
まだはっきりとはしていない。
アイの中でも答えは出ていないようだ。
「エジン公爵領へ戻るのでは?」
「堕天使と『竜』を連れて帰っても大丈夫かな」
「あぁぁ、それっすか」
ウルシャの疑問に、アイが応えて、クオンが同意し、三人で小難しそうな顔をした。
通商連合や教皇庁が手を焼くVIPの登場に、エジン公爵領が果たして耐えられるのか。
ひとつの国に力が集まると、周りは警戒する。
アイや俺たちにとってはそれほど問題はないかもしれないが、現領主のオフィリア嬢が困るだろう。
ただでさえ、領主からの正式な引き継ぎではないのだから。
今はずっと政務で忙しい状態だろうし。
そこで思い浮かぶ。
「サミュエル卿のところは?」
三人は苦い顔を崩さない。
「どうっすかね」
あまり気が向かない様子のクオンに、アイもウルシャも同意のようだった。
『神器』の共闘による『竜』退治を仕組んだシガさんが、信用ならないのはよくわかる。
ある意味上手くいっているからいいものの、あそこで俺たち全滅になってもおかしくなかった。
そういう賭けに、俺たちを投じるシガさんを、信用していいものか。
あ、なんか俺、だんだんとこの世界の常識が見えてきている気がしてる。
馴染んできたなぁ。
プルルルルッ!!
目をつぶっていたカウフタンも含めて、皆が俺に警戒を示した。
わかっている。警戒した相手は俺じゃなくて、服のポケットに入っているガラケーだ。
「こんなタイミングで連絡か」
「師匠のことだから、騒ぎが収まっているのが分かって連絡してきたのかもな」
そう言ってアイが手を差し出す。
「イセ、貸してくれ。アイが話す。あ、ちゃんと会話ができるようにしてからで」
まるでガジェットの類に弱い子みたいなことを言うアイに、通話ボタンを押した後、
「アイが出ます」
と何も聞かずに受話器に向かって言ってから、アイに渡した。
「師匠! 何考えてんだ!!」
アイは、向こうの話も聞かずに、いきなり怒鳴った。