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185話 可能性はゼロではないと思いたい

 深夜の月の光が降る中、薄ら寒さを感じる俺は切り出した。


「ケアニスさん、今日は一日中動き続けてえらい疲れてて。その上でこの難しい話の焦点になってるのが俺のハイエースの力? ちょっと理解できない」


「わかりました。そろそろ休みましょう」


 それでいいですね、とばかりにキルケ、そしてタツコを見るケアニス。

 ふたりからの反応は無言。


「では、今日の立ち話はここまでで。また後日、このような機会があったら話しましょう」


 もうこれでこの話はおしまいという意味で、曖昧な予定を言っているのか。

 それとも本気で、そういう機会を作ろうとしているのか。

 ケアニスは、読めない。


 ただその機会を、キルケとタツコはまた望んでいるような、そんな気がした。


 そしてハイエースの元隠し場所付近で野宿。

 車中泊をするのは、俺たちの中の女子組。

 アイ、ウルシャ、クオン。


 タツコは、ケアニスとキルケと話があるのか離れていった。


 カウフタンは、周りを警戒するとかで外へ。

 俺も付き合おうと思ったのだが、アイに車内に来いと誘われた。


「行け。『神器』がお呼びだ」


 躊躇していたら、カウフタンがそう言うので、仕方なく車中泊の仲間入りすることにした。

 衛兵隊長代理様と『神器』様が言うことに逆らえるわけがない。


 ということで、運転席に座って寝る。

 隣にはアイが毛布にくるまっていた。

 助手席でもよく眠れそうなくらい身体が小さい女の子がいる。


「どうだ? 眠れそうか?」


「どうだろう」


 わざわざここに誘われるというシチュエーションは、ドキドキで眠れなくなるかもしれない。


「……さっきの話だけどな。お前はお前でいいんだからな」


 アイが気にしていたのは、ケアニスがさっきまで話していたことだった。


 ごめんなさい、今、ここに戻った瞬間は、下心の方に重きを置いてました。

 ケアニスの追求から逃れただけで、少し落ち着いてました。


「イセが世界を背負う必要はない」


 アイは、大きな瞳で強く俺を見つめる。


「召喚したアイが言うのも何だけどな。『神器』と呼ばれる連中は皆、どこか他力本願だ。誰かを利用し、自分に都合のいい結果を求めたがる。ケアニスしかり、キルケしかり、師匠しかりな」


「確かにアイは、力を貸してくれと頼んだ。だが、それと世界を背負うこととはまったく違う。それを強要するような真似は、アイが断固拒否する」


「だから、イセは安心してくれ」


 ……つまりアイは、俺のことを気遣ってくれたようだ。

 力の性質が違うという点で、『神器』たちから狙われている状況をよく思っていないアイ。

 俺の力より、俺の気持ちを優先しようとしてくれている。


「ありがとう、アイ」


「なっ!? 今のでアイがお礼を言われるようなこと、あったか?」


「心配してくれてありがとう、だ」


「…………」


 それを聞いて、アイは少し黙る。

 そして、何がどう自分の中で決着がついたのか、アイは耳まで真っ赤になった。


「……そ、そうだ。イセの主としてな、心配しないといけないからな。ただの親切じゃないんだからな」


 ツンデレが来た。

 これが誰でもわかるツンデレだ、とでも言うかのようなツンデレだ。


 これはひょっとしてフラグか? フラグが立った? いや立っていたのか?

 このかわいい子だらけのハイエースの中で、まずメインヒロインと言ってもいいアイが、主人公の俺の魅力に陥落したのか?


 だとしたら……おそらく難易度はチョロい。

 つまりここからハーレムルート入りということか。

 可能性はゼロではないと思いたい。


「……痛ッ」


 今、ヒュッと風が足元をかすめて、靴と靴下を脱いだ足の親指あたりに何か尖ったものがぶつかったような、かすかな痛みが走った。


 血が出ないような精度で、足の親指の厚い皮膚だけを少し切っていた。

 なんだろうと思ってよく見てみると、小さなクナイだった。

 何でこんなところにと思った瞬間に、強い視線を感じて、ぞくりとした。


 後部座席をベッドにしているあたりから、冷徹な殺気の視線が来ている。

 そしてさらに強いのは、熱気のこもった殺意の視線だ。


 前者がクオンで、後者がウルシャだ。

 彼女たちのギロリとした視線は、ふたりの感情や考えていることまで伝わってくるレベルだった。


(ウルシャさん、クギ刺しておいたっす。物理的に)

(ありがとうクオン。これ以上剣気を抑えきれないところだった)


 心の声でのやりとりすらわかる。


 衛兵隊の全てや、真力武装の天使たち、最強の剛術使いの鬼王を相手にしても一歩もひかず、世界宗教の中心地への潜入をしてみせたふたりだ。

 アイを守るために、躊躇することなど想像もつかない。


「……よし、寝よう」


 小声で宣言し、ふたりに対してこっちは安全ですよとアピール。

 そして寝ようとした時、アイがすでに寝息をたてていることに気づいた。

 無経過にも、俺に寄り添って。


「おやすみ」


 聞こえてないであろう相手に小声で伝え、俺も目を閉じた。


 疲れが溜まっていたからなのか、アイのおかげで安心できたからなのか、その後はすぐ眠れた気がする。


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