184話 狙われている者
世界の外からの力を利用した『魔法』
世界の内側の力を利用した『真力』
体内の力を利用した『剛術』
「……3つの技は、それぞれの力の由来と、力を使うための仕組みはが、はっきりしています」
ケアニスは、夜の月光に照らされ、にこやかに口にする。
「だが、あなたの使うものは、そのどれでもありません。強いてあげるなら剛術に近いですが、近いだけです」
「……魔素が関わってるから、魔法だろ?」
「剛術も魔素が絡んでいます。そして術による変化は、些細なものです」
「鬼王が見せたあれが些細!?」
「ケタ違いなだけで、剛術の範囲内の技です」
きっぱりと言うケアニスに、アイが頷いて同意している。
「あなたのように、他者を別モノに変える力は、真力や魔法や剛術ではありえないのです」
聞いているので知っている。
自分では、一応踏ん張って頑張っていると使える力なので、実感はからっきしだが、一応知っている。
それを恐れて、キルケが天使軍団率いて俺を亡き者にしようとしてたし。
「あ、でもほら、キルケが俺の力、防いだよな」
助けを求めるようにしてキルケを見る。
が、彼は仏頂面のまま、無言だ。
「防ぐくらいならできますよ。技や術であることには変わりはないのです。触れないようにする、もしくは別の効果の無さそうなものに先に触れさせる。そして守りたいものだけを守る。そういうのは真力は得意ですから」
同意を求めるように、ケアニスはキルケを見る。
キルケは、嫌そうにしながらそっぽを向いた。
当たっているようだ。
「もちろん私も出来ますし、アイさんの魔法でも理論上は再現可能でしょう。剛術では流石に……いや、規格外の鬼王さんなら可能かもしれません」
「アイの魔法? どうだろうな……あ、ああ、そうか、なるほど。できるな。可能だ。めんどくさいから、やりたくないけどな」
どうやら俺の力の対処を思いついたみたいだ。
こういうところ、敵にするとやっかいなんだろうな。
キルケの苦々しそうな反応を見てて、ほんと思う。
「だから、その力と仕組みを把握しているイセさんは、この世界の今後を決める鍵になると、私は考えています」
「そ、そこまでか?」
俺の気持ちを、アイが純粋に驚きながら代弁してくれた。
「おや? アイさんが召喚した戦士じゃないですか」
「いやだって、こいつ女を誘拐してるだけだぞ」
「言い方!? だけって言い方、止めてっ!」
言われ無き非難に断固抗議する俺。
でも、そんな抗議も、誰も聞いちゃくれない。
それにケアニスという男もやったぞ。
うん、やってるね、誘拐。
俺、ひどいね。
自己嫌悪ハンパないね。
でもここにいる連中は皆……俺の力とか仕組みの方に夢中みたいだ。
それもこれも、ケアニスが変なことを言い出したからだ。
「イセさんは、自分が持つ力の、本当の使い方を知らないだけですよ」
俺に注目させる、変な空気にした本人がそんなことを言い、キルケとタツコを見る。
ふたりは、ケアニスのように笑っておらず、アイのように失笑気味でもなく、ただ俺を、強くねめつけてきている。
背筋がぞくりとした。
「それを知った時、力と仕組みを教えてください、イセさん」
ケアニスだけは、ずっと変わらない視線を俺に向けている。
この視線は、女の子になれるかどうかと聞いてきた時と、変わらない。
まるで首根っこを掴まれたような気分になって、息苦しかった。
それが収まったのは、近寄ってきたアイが、俺の手を握ってくれたからだ。
「イセ、どうした? 気分悪いのか?」
「……いや」
息苦しさは消えたが、そう返事をするのが精一杯だった。