182話 『真力』の正体
「私が『魔法』の復活に協力だと?」
「うんっ」
キルケが俺たちの行動を邪魔できないようにとケアニスに頼んでいた者と、同一人物とは思えないことを言い出すアイ。
当然、こちらのメンツみんなは半ば呆れ気味だ。
「するわけないだろ!」
「した方がいいぞ」
「は?」
「わかってないようだな。ケアニス」
「はい、なんでしょう」
「キルケに言ってやれ、アイの言うこと聞かないともっとえげつないことをするぞって」
アイは、ケアニスが天使たちにやっていることはえげつないと思っているようだ。
ぎょっとするキルケ。
それに対して得意げなアイ。
ケアニスの力を笠に着て、したいことをしようとしているアイ、すごい。
この人類代表に呆れる。
「アイさん」
「ん?」
「そんなことじゃ、キルケ先輩も協力しませんよ」
「なっ!? 力づくじゃないと言うこと聞かないんなら、力づくで協力させればいいだろ」
「とんでもない。そんなことをして、もし私の手が届かないところで裏切られたら、アイさんたちはどうやってキルケ先輩たちに対抗するんですか」
「ずっと見張っているのはだめか?」
「無理です。私だって私のしたいことがありますから」
「む、それもそうか。残念」
残念そうにした後、再びキルケの方を向くアイ。
「よし、なら『魔法』復活がいかに魅力的かを、キルケにも話そう」
いったい何を言っている? という風にキルケに見られるアイ。
ていうか、その場にいる皆がそういう目で見ている。
そしてそれを見て純粋に楽しんでいる笑顔なのは、ケアニスだけだ。
「簡単に言うとだ、『魔法』で真力の再現は可能だ」
「は?」
「『魔法』は、世界の外側の力を使うものだろ? 真力は世界の内側の力を使う。それはわかるな?」
そんなことはわかっているのか、それともただ無視を決め込んでいるのか、キルケは答えない。
でも、アイは話を続ける。
「だから『魔法』で、世界の内側の力に作用する魔法陣も作り出せる。なんだったら装置化して永久機関化も、理論上は可能だ」
「な、なにを言っている……」
「真力でも世界の外の力を使うことも可能だろうではあるだろう。だが、元々内なる力の使用のための術理だ。『魔法』ほど簡単なことではないだろう」
「『魔法』で真力を? そんなこと、我々が許すと思うか?」
「許す許さないの話じゃない、出来るか出来ないかの話だ」
「違う。我々にとって真力とは、『神』が天界をもって世界を……」
「それだけじゃない。『神』は真力の他に、我々に『魔法』も与えたのだ」
「…………」
「だからキルケ。『魔法』の復活に協力してくれ」
「……無理だ」
「いやいやいや。わかるだろう? 今までの真力ではダメだと。こんな簡単に壊れて、こんな簡単に追い詰められるんだ。そんな力、世界の抑止力たりえない」
アイに言われ放題になっているキルケは、怒りつつも状況を理解している様子。
俺にはさっぱりわからないところはあるが。
ただ、あの強力無比であった真力が、ケアニスの裏切り1つで無効化されている。
キルケとしても、これ以上真力のみに頼ってもいられないのは確かだろう。
「そもそもだ。天界の真力の装置は、かなり優秀ではあったが、元通りにはならんだろう」
「それをなぜ貴様がわかる?」
「え? だって。真力の力の源は――」
「そこからは私が話しましょう」
ケアニスが、アイの話に割り込んできた。
「ずるいぞ! 話してたのに!」
「今話そうとしたこと、私が教えたことじゃないですか」
「予想はついていた。実際に確認したのはケアニスが見せてくれたからだけどな」
「流石、アイさん」
流石言いながらも、引く気はないケアニス。
アイもまた、ケアニスが言う前に言うような真似はしなかった。
「キルケ先輩。アイさんの言う『魔法』の復活は、天使たちにとっても都合がいいのは間違いないです」
お前に言われてもな、という態度のキルケ。
そんなこと百の承知という感じで、ケアニスは続ける。
「アイさんが話そうとした真力の力の源……というのは、ずいぶんと優しい言い方をしたものですよ」
「優しい?」
「ええ。もう少し適切に、簡潔に、それでいて残酷な事実として先輩に教えましょう」
もったいつけて言うケアニスの次の台詞に、皆が耳を傾ける。
「真力の正体。それは『竜』の力と同じものです」