180話 『神』として望むもの
飄々と語りながら、それでいて威風堂々。
堕天使ケアニスの姿は、そう言っても差し支えない。
味方であるなら、彼の頼もしさったらないだろう。
そんな彼に笑顔で見つめられる俺。
皆気付いている。
ケアニスが、この場をこの形に治めているのは、俺が原因だ。
『神器』のアイとキルケを抑え込む理由は俺だ。
ケアニスと出会ってからの行動は全て、俺に行き着く。
彼が協力する理由。
それは俺に、己をおにゃのこ化して欲しいからだ。
だが、本当にそれだけだろうか?
『神』に代わって真力の装置を作り出し、天界の装置を借りずとも力を使えるケアニスが、それだけのために協力するものだろうか?
『竜』が弱体化し、天使たちも真力を失い、亜人たちの剛術もケアニスに比べればまだ下だろう。
圧倒的優位に立つ彼の目的が、女の子になってみたい?
常人には計り知れない欲望があるのが天才なのかもしれないし、実際その通りなのかもしれないのだが。
だが、それだけなのか?
本当は……俺の『力』そのものを欲してないか?
真力を、装置ごと作り出した彼だ。
彼のその作り出すに至る天才性もさることながら、その執念はどうだろうか。
自ら真力そのものを作り出すほどの欲。
ならばもっと他の、もしかしたらもっと上の『力』も生み出したいと、考えないものだろうか?
故に俺は思う。
彼は俺の『力』を欲している。
そして、その力そのものを作り出したいと考えている。
俺が彼を恐怖するのは、そこだ。
……でも、ほんとに女の子になりたいだけかもしれない。
真意はそのうち分かるだろう。
彼もまた『神』を目指しているのなら、いつか分かる時が来るだろう。
「どうしました?」
「いや」
俺の疑いを誤魔化せたならいいが。
「まるで私を女の子に変えたそうな目でこっちを見てましたよ」
「俺はそんな変態ではない」
そう言う俺を疑う視線は、ケアニス以外の皆から来た。
余計なこと言うな! と睨む。
「そうですか。では話を続けます」
「まだあるのか」
「ええ、アイさんに」
アイが首をかしげる。
「アイさんが、『神』になる目的はなんですか?」
「『神』になるのが目的だぞ」
「質問を変えます。『神』になって何をするつもりですか」
「『神』……っぽいこと?」
質問者に疑問をぶつけるように言うアイ。
ケアニスが少し固まったのがわかった。
「『神器』同士が協力する。それそのものが目的。協力のための協力。その姿勢、アイさんを見ててわからなくもないのですが、それだけとは思えません」
アイがまた首を傾げる。
どうしてそういう話をしているんだ? と言いたげに。
でもケアニスの言い分もわかる。
今、『神器』たちを動かしているのはアイだ。
アイが俺を召喚し、動かすことで『神器』たちの勢力バランスは塗り替えられつつある。
そのアイの具体的な目的を知りたい、とケアニスは考えている。
「……う。そ、そのあまり考えてない」
皆に注目されて、何となく口を開くアイ。
「本当に?」
ケアニスは、少し目を細めた。
本気で、疑問に思っている。
それが苛立ちに見えるほどだった。
「ほんとうだけど……あ」
アイはいいこと思いついたという風な感じで目を見開く。
「やりたいことはある! あるぞ!」
アイは俺の方を見て言い出した。
「なに?」
皆の代わりに、俺が聞く。
アイは少し胸を張り気味になって言った。
「『魔法』の復活だ」
どんだけ大事なのかは、ケアニス含めてそこにいる全員の反応からよくわかった。
『魔法』ってあれだよな。
あの『神』が作って、天使が壊したっていう、あの『魔法』のことだよな。