表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
180/280

179話 『神器』としての目的

 街道はずれの木々の多い森。

 しかもすでに暗くなり、ランタンの明かりが灯される中で行われる会話は、世界を左右するとても重要なものだった。


 だがそれも短く、ケアニスによる一方的な語りで終わる。

 それがケアニスとキルケ、両者の勝敗の差を色濃く表しているようだった。


 そしてしばらくの沈黙の後、話し始めたのはケアニスだった。


「今日は夜になりましたし、休んで行きますか?」


「は?」


 キルケは、ケアニスののんきな物言いに、苛立ちの疑問をぶつける。


「徒歩で帰ると、半日はかかりますよ」


「……このまま私を解放する気か?」


 それを聞いたケアニスは苦笑する。


「解放といえば解放ですが、真力を失ったあなたなら、どこで何をしようが私の手は届きます」


 言われた者に、緊張を強いる宣言だった。


「キルケ先輩が天使として、そして『神器』としてどうするのか、今後の行動を見た上で、対応させていただきます」


 キルケは怒りに声を震わせる。


「とことん私を……天使を愚弄するのだな」


「そう思ってもらっても構いません」


「後悔させてやる」


「ええ。それくらいでないと。私はともかく他の『神器』に遅れをとりますよ」


 いや、ほんとケアニスって容赦ない。

 天界を捨てても、天使たちを見捨てても、己は一切傷つかないし、立場も維持されていることがさも当たり前。

 それでいて、どこまでも上から目線で見てやってる。

 こういうのを慇懃無礼って言うんだろうな。


 同期にこんなのがいたら、さぞ辛かっただろうなと思う。

 ウルシャもクオンもカウフタンも、若干俺と同じような同情の視線を向けている気がする。


 それもまた、キルケを苛立たせているだろう。

 そこまで落ちぶれちゃいない、と。


「……天界へ戻る」


「はい。ではまた」


「え! ま、待った! ちょっと待った!」


 キルケとケアニスがその場を締めようとしたところで、アイが待ったをかけた。

 皆が注目する。


「ケアニス、このまま本当に帰しちゃうのか」


「……はい」


「今のうちに、キルケを邪魔にならないようにして欲しいぞ」


「「「「え……」」」」


 クオンを除いた皆がギョッとした後、容赦ねぇって顔をして見ている。


 それを見たアイが、あれ? って顔をした後、引っ込む。


「ごめん、今のなし」


「「「「えぇ……」」」」


「いや、今のはキルケやっつける流れかと思って。だってほら、キルケ、大変だったじゃないか。死ぬかと思ったぞ」


「それはまあ……」


「そうっすね」


「う、うむ……」


 アイの言っていることは本当で、ウルシャとクオンとカウフタンは同意する。

 俺も頷かざるを得ない。

 真力で対抗されない今のうちに潰しておくのは、理にかなっている。


 だが、状況は違う。

 キルケたちを上回る、圧倒的な力を持った存在が、この場の状況を作っている。


「アイさん。『神器』は協力すべきとは思いませんか?」


 その状況を作ったケアニスが言った。


「思う」


 アイは躊躇なく素直に頷く。


「アイさんは前に言ってましたよね。『神器』は『神』を目指して争い合うのではなく、協力して世界を支配すべきだと」


「支配って言ったかな? まあだいたい概ねそんな感じのことを言った気はする」


 すごい曖昧だった。


「私はそれに賛同しかねます」


「ええっ!?」


 あれ? 協力体制に賛同しないなら、キルケをここで潰してもいいって流れ?

 それに気づいたキルケもまた、緊張に顔をこわばらせる。


「なんで? 協力してくれてんのに?」


「自分の目的のための協力は惜しみませんが、アイさんの言っていたことは協力のための協力って感じで、正直ありえないって気分です」


「そ、そっかー」


 アイの視線がケアニスからそれる。

 あからさまに動揺している。


「なので一応、私はアイさんの目的に叶うように、振る舞っているつもりだったのです。キルケ先輩をやっつけるというのは、アイさんの言ってたことと矛盾してませんか?」


 あぁ、それはそうだ。

 ってみんな思う。

 でもアイは違った。


「あ、ああ言えばこう言う!」


 ここにもまた、圧倒的な勝者と敗者の構図があった。

 ケアニス無双だ。

 この場合は相手がチョロすぎた気がしないでもない。


「まあ私はどっちでもいいですよ。目的のために手段を選ばないのも悪くない」


 と言いながら、ケアニスは俺を見る。

 こっちを見てにこりとしているだけなのに、蛇に睨まれた蛙の気分になる。


 生殺与奪権を他人に握られているってこんな気分か!


「私も『神器』として『神』を目指しています。その道程にあなたたちがいた。しばらく仲良くやるのは悪くないですよ」


 この場は、これで決着がついた、と思っていいだろう。

 マジ、ケアニス無双。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ