表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
179/280

178話 『神器』の天使たち

 ハイエースを隠せた場所で、休憩をとる俺たち。

 ここにいることを、アイは魔法で知らせた。

 あとは、ケアニスが飛んでくるのを待つだけ。


 落ち着いて休憩を取れるようになると、今日のことを振り返ってしまう。


 とても大変な1日だった。

 教皇庁に潜入してからわずか1日、いや半日。

 俺たちは敵地へ潜入したものの、ケアニスを救い出すという目的を果たせなかった。


 代わりに多くの結果を得た。

 タツコによって叶った教皇との接見。

 出し入れが可能になったハイエース。

 教皇がクオンと同郷の忍者(?)で、アイの味方であったという事実。

 今、目の前で捕まっている天使長キルケ。

 そして、ケアニスによって失われた真力。


 目的は果たせてないのに、結果だけみると大勝利だった。


 まず、俺とタツコを殺めようとする天使たちの戦力激減。

 これはホントに助かった。


 だがきっと、これはこれでいろいろ問題はあるに違いない。

 教皇庁と争っていた通商連合のサミュエル卿がどう出てくるか。

 それに、天使に次いで強力な力を持っていた亜人たちもあなどれない。


 新たな問題が出てくるのは間違いないだろう。

 それによってアイと俺がどうなるのかは、俺には予想不可能だ。


 と、そんなことを考えていたら、アイの魔法に操られた小鳥が飛んできて葉っぱを落とした。

 それを拾って読むアイ。


「そろそろ来るぞ、ケアニス」


 そう言うと、キルケがびくっとした。

 警戒をあらわにするウルシャとクオン。


「お前たちに止められるとでも?」


 キルケの薄ら笑いに、ふたりは無言だった。

 それを無力の証と見たのか、キルケは拘束を解こうと動く。


「むっ!?」


 彼を縛っている縄は解けず、さらにはクオンにあっさり押さえつけられてしまうキルケ。


「……何をした?」


「したのは僕じゃないっす。元ご同僚っすよ」


 クオンを睨むキルケの困惑がよくわかる。

 真力が出せない状況を訝しみ、その原因はと俺の方を見てくる。


「だからイセじゃないぞ。ケアニスのせいだ」


「ケアニス?」


「お前らが捕まえた、元同僚だ。ほら来たぞ。説明してもらえ」


 アイが指さした方向から、すっ飛んできたケアニス。

 サミュエル自治領へやってきた時と同じように、空から舞い降りてくる。


「みなさん、ご無事でなによりです」


「無事なのが不思議なくらいだけどな」


「ありがとうございます。いろいろ助かりました。まさか助けにきていただけるなんて。本当に驚きましたよ」


「こっちこそ。いきなりいなくなったかと思ったら、天使に捕まったフリをしていたとか。先に教えといてくれ」


「いやぁ、アイさんに伝えたらすぐバレると思って、内緒にしてました」


 その判断は正しいと思わざるを得ない。

 短い付き合いなのによくわかるな。

 いや、そんなことはないか。

 お互いに『神器』だったっけ。


「ケアニス!!」


 朗らかにお互いの無事を喜び合う中、まったく場にそぐわない怒号がおこった。

 クオンに取り押さえられている天使長キルケだ。


「キルケ先輩」


 そう言うケアニスは、クオンを見る。

 クオンはアイに確認をとった上で、キルケを開放した。


「貴様、何をした」


「真力の装置を止めました」


 唖然とするキルケに、ケアニスは笑いかける。


「わざと捕まったんです。キルケ先輩たちの私への対策を見て、これはわかってないなと思ったので」


「わかってない?」


「真力の本質です。これは武器ではありません。『神』が人間たちのために構築した魔法と同じものです。それはわかっていたでしょう? 私が独自の真力の装置を作ったことで理解できていたはずです」


 ケアニスは、キルケに対して諭すように話し続ける。

 その姿はいつもと変わらない。


 キルケら天使たちは、全戦力を削がれたようなもので、呆然としている。

 そんなこと意にも介さず、ケアニスは今までのように先輩に話し続ける。


「真力の本質は魔法と同じ。それを理解していただくには、魔法を失った人間たちと同じ目にあってもらうのがいいと考えました。なので天界にある真力の装置を壊すために、天界に戻ったんです」


「……お前、何を言っている?」


「『神器』キルケ。同じ『神』へ至る道にいる者に、言っています」


 ケアニスの声に乗る情が変わる。


「キルケ、『神器』としてのあなたはまだ終わってません。これからです。ですよね、アイさん」


 突然、話を振られたアイは、びっくりしつつもうなずく。


「あー、うん。そうだ。師匠も魔法を失い、この世界から離れても『神器』のままだ。真力を失ったキルケが『神器』であるなら、まだ終わってはいないな」


「ということです。キルケ先輩、今後ともよろしく」


「…………」


 呆然とし、声も出せないキルケ。

 それは『神器』としてケアニスに、そしてアイにも、敗北している者の姿としか見えなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ