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164話 本来の目的

 ガラケーから聞こえてくるシガさんの声に、安心してしまう。

 それだけ追い詰められているってことか。


「今どうしている? 連絡繋がらなくてびっくりなんだが」


「いやちょっと今、こっちもごたついてて」


 俺たちは、シガさんの提案無視してケアニスを助けに来た。

 ケアニスを助けに来て、教皇に会いたいというタツコに付き合って。

 んで、キルケに追われている。

 教皇に会いに行く組の陽動作戦としては、無事とはいかないまでも上手くいっている?


 だがこの辺で、手詰まり感がある。


「まるで今までごたついてないみたいな語り口だが、お前とアイが来てからこっちごたつきまくってるぞ」


 確かにそうだ、と納得してしまいそうになった。


「どうしてこっちからの連絡を待ってなかった? おかげでサミュエルくんたちはテンヤワンヤなんだよ」


「それを見て、シガさんは高みの見物ですか」


「一度死んだって意味なら、たしかにはるか高みだな。異世界に転生してるからな」


 そうでした。

 ガラケーで連絡とっているし、元々こっちの人間でもあったけど、そもそもが俺が元いた世界に転生しちゃったのがシガさんだ。


「で、サミュエルくんは、捕まえた『竜』を連れてこっそりエジン公爵領に戻っているのではないかって疑っているけど、今のところ捜索中だ。上手く隠れているのか、それとも全然別のところにいるのか。私は後者だと思っているんだがどうだ?」


 帝国内の流通を担うサミュエル卿なら、エジン公爵領の出来事も手にとるようにわかるかもしれない。

 そして、今の所こっちの様子を掴んでないということは、俺たちの移動が早かったのもあるだろうけど、やはり教皇庁の領域には手が出ていないということだろう。


「シガさんの予想の方が、だいたい当たってますね」


 さて、どこまで伝えようか。

 今の俺は、アイたちケアニス救出隊とは連絡とれず、カウフタンとタツコは満身創痍で動けるのは俺だけ。

 だが、目下の最高戦力でもあるハイエースは、さらに使い勝手が良くなっている。


 今、このタイミングで、どうするかの方向を決められるのは、俺しかいない。

 少し考えて、決断した。

 相談しよう、そうしよう。


「どこに隠れてるんだ? 地理とかわからんか。わかるやつと変わってくれ」


「俺でもわかります。教皇庁です」


「はぁ!? ってまさか、天使たちに捕まってたのか!?」


「半分くらいだけあってます」


 『竜』を捕まえる際に天使たちを抑えていたケアニスが捕まったっぽいこと。

 そのケアニスを助けるために、教皇庁へ来たこと。

 俺とタツコとカウフタンは、陽動のため教皇と会っていたこと。

 等々。


「天界に殴り込みって、アイが考えそうなことだな」


 正解。


「しかも今、さらっと、教皇を誘拐したって言わなかったか?」


 『等々』のところで伝えた、個人的にはあまり重要でないところで、シガさんは反応した。


「なりゆきで」


「マジか。お前らマジか……はぁ。こっちの予想、ぜんぜん当たってないよ」


 しばらくため息込みの、よく聞こえないつぶやきが聞こえる。

 そして、


「詳細はわからんが、しでかしているのはわかった」


「まあ、はい。しでかしてます」


「サミュエルくんに話していいな? そっちの緊急連絡手段で教皇庁にアクセスする手も、もしかしたら使える」


「助かります。お願いします」


「あまり派手なことばかりやらかすなよ。かばいきれんぞ」


「してるつもりはないんですけどね」


 地味な能力だし。


「アイもそうだが、自覚がないな、本当に……おい、イセ、お前、死ぬなよ」


「はい?」


「生き抜いて、それでアイを守りきれ。そのために召喚されたんだろ?」


 まあそういうことなんだろう、と思う。

 アイを見捨てるというのは俺の中ではありえない。


「あれは、あんなだが、人類の希望なんだ。神に選ばれた『神器』の中でも、破格の存在なんだよ」


「それは……なんとなくですが、わかります」


 キルケも、ケアニスも、シガさんも、それに鬼王やタツコも、アイに対する時はどこか……手加減を加えているように見える。

 魔法が無くなった世界で、魔法が使える存在。

 彼女に対して、どことなく敬意が見える。

 それは、他の『神器』にしても、特別な存在に映っているから、なのかもしれない。


「アイのことはさ、サミュエルくんにも協力してもらって、今まで目立たないようにしてきたんだ」


「え」


「だがお前の召喚で、だいぶクローズアップされている」


「俺の、せいで?」


「端的に言うとそうだ。だから守りきれ。いいな」


 それは言われなくてもそうする。

 だから返事は決まっていた。


「守ります」


「頼むぞ。あ、もう時間がない。またあとで連絡する。次はすぐ出てくれ」


 それだけ言うと、ガチャ切りするように通信が切られた。

 このガラケーの通信限界が近かったみたいだ。


 その限界を見極めた上で、シガさんが俺に話した内容は、

 『アイを守れ』

 だった。


『おい、それなんだ?』


「あの、それはいったいなんでしょうか? お話していたみたいですけど」


 タツコと教皇が、ガラケーに興味を持って聞いてくる。

 上の空で、ガラケーと答えて、俺がいた世界にあった便利な道具と答えておいた。


 そんなことよりも、俺にとって今は目的がはっきりしたことの方が、重要だった。


「アイと、合流しないと」


 でないと守れない。


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