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163話 治癒の真力?

 教皇は俺たちの先頭を歩き、比較的大通りのそばで、それでいて人があまり寄りついてない場所を案内してくれた。

 カウフタンを寝かせて、タツコを休ませて、その上で大通りの様子を見にいく。


 教皇の事務局での騒ぎで、あたりは騒然としていて、野次馬も集まっている。

 ハイエースで抜け出してから、まだ30分も経っていない。

 何が起こったか分からない状況をまとめるのも大変だろうから、収拾はまだまだ先だろう。


 それに今、こっちに教皇がいる。

 実質的なまとめ役は、もしかしたら大司教かもしれないが、教皇が浚われたとなると、現場の混乱に拍車はかかっているだろう。


「お休みになられないのですか?」


 俺が見に皆から離れたのに、教皇がついてきていた。


「ああ、休もうか」


 皆のところに戻り、鬼用に用意していた大きなマントの上に座る。

 足を投げ出すと、ものすっごい疲れているのがわかった。


 タツコもぐったりとしている。

 そりゃまだ体に慣れてない上、喉まで潰したタツコも大変だよな。


「ふぅ」


 そんな中、教皇もひと息ついていた。

 何か飲み物でもあれば良かったんだが、携帯食くらいはあるが水はなかったはず。

 教皇って立場だから、きっと高貴な環境で暮らしていただろうし。

 こういう時、きっと側仕えや護衛がいて、彼女を気遣っていただろう。


「なんかすみません」


「え?」


「あ、えっと、こんな風に連れ出してしまって」


「いえ」


 なんか遠慮気味な様子の態度をとられてしまった。

 むしろ戸惑っている?


 うーん、こういう時にカウフタンが起きていてくれていれば、助かったのに。

 どういう風に対応すればいいのかわからん。

 タツコは論外だし。


『おい。私には言うことはないのか?』


 タツコが俺に触れて、何か不満げに言ってきた。


『ここまで一緒にやってきたんだぞ。労いの言葉くらいあっていいだろ』


 そういうのって、求めるものじゃなくて、自然と出てくるのを聞くもんじゃないの?

 って思うのは、きっと俺がバイトくらいしかしたことない、まだまだ社会人じゃない学生だったからだろうか。

 わからん。

 わからんので、適当に言っておくことにした。


「ここまでお疲れ様でした」


『ぞんざいだな。私にそこまでぞんざいな奴、初めてだぞ』


「そうですか」


 そりゃ初めてだろう。

 この世界で『竜』を人間の姿にしたのは俺くらいのものだろうし。

 って考えると……そうか、いきなりこんな格好になって、満身創痍って辛いか。


 だいたい、俺の覚醒を促してくれたのはタツコだ。

 タツコがいなかったら、あの場でキルケにボコボコにされて全滅だった。


「ありがとうタツコ。喉の方は治せるかどうか分からないが、全力を尽くすよ」


『そうだな。これは治らないと不便だ』


「タツコ様の喉が、どうかしたんですか?」


 教皇が俺の言葉を聞いて、反応してきた。

 タツコの声は聞こえないが、何らかの方法で俺が意思疎通をとっているのは見てわかったっぽい。


「言っていい?」


 と聞いたら好きにしろと来たので話した。


「そういうことでしたか」


「魔法が失われているから、治癒の魔法っていうのも今はもう無いんだよな」


「ええ。ですが、方法はあります」


「お?」


「天使様の真力による治癒の力です」


 そうか!

 俺が見てきた天使たちって、みんなバトル民族って感じで戦ってばっかりだったけど、あの力っていわばゲームとかにある白魔法とか神聖魔法とかそんな感じの力か。

 あの治癒魔法とかの系統のやつか。


「ってことは、ケアニスさえ戻ってくればイケるかな」


「ケアニス様?」


「ああ、ここに来る前は、しばらく一緒にいたんだ」


 それだけ言って、タツコにも聞いてみる。


『まあそれで治ってくれるなら、ありがたいな。これ以上痛み続けるのも嫌だしな』


「え? 痛い?」


 痛そうにはまったく見えない。


『痛みは遮断している。が、そういうことをすると、この体に無理をさせてしまうからな。あまりよくないみたいだ」


 そりゃ痛みは、体の不調を伝えるものだ。

 それを消してしまえば、体の不調に気づけない。


 つまり、消さなければいけないほどの痛みか。

 追い込まれているな。


 これはいざとなったら、俺が囮になって町中を暴走し、その間に教皇に頼んでケアニスを救ってもらう?

 そこまで手を貸してくれるか?

 だが、カウフタンがあの様子だし、治癒は結構早いほうがいいんだよな。

 もし教皇が協力してくれるなら……


「な、なんでしょうか?」


「あ、ごめん。何でもない」


 教皇をじーっと見つめてしまった。

 戸惑う彼女を見てると、流石にこれ以上、頼むのはまずいと思う。


 彼女は俺たちの協力者ではあるが、無理矢理さらわれた立場だ。

 もし俺たちに協力していると教会の人間にバレたら、彼女の立場が危うくなる。


 って考えると、俺が何とかするしかないだろうな。

 俺ができることは、ハイエースで町中かっ飛ばすくらいだが。


 いや、まだある。

 キルケをこのハイエースの力で、おにゃのこ化して連れ出してしまえば、今度は天使たちの力を、俺たち陣営に引き込むことができるかもしれない!

 カウフタンやタツコのように!!


『お前、とんでもないな』


「っ!?」


『私は、そんな安直な感じでこんな体にされてしまったのか』


「あれ? 聞こえてる?」


『ああ。こうしてるとお前が考えたこと、だだ漏れだぞ』


「……ちょっと離れてもらえる?」


『ま、いいだろう。心の中を覗かれるのは誰だって嫌だしな』


 今のはきっと、『竜』の時にアイに覗かれたことを皮肉っているんだろうと思った。

 俺に嫌味言われてもしょうがないのにねっ!

 って考えているところで――


 ブルルルルッ!


「っ!? あ、あれ? これって」


 このポケットの奥で動いているもの。

 その動いている長方形のものに、覚えがある。


「そうか! これがあった!!」


 シガさんのガラケー!!

 俺が持っていたんだっけ!!


 着信に出てみる。


「もしもし?」


「やっと繋がったか。その声はイセか? ようやく連絡がとれたぞ」


 いろいろはた迷惑なことをしていたシガさんだったが、この状況で聞いてホッとしてしまった。


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