162話 女教皇の真意
「逃げられますね」
「に、逃げるのか」
ここでもし人を呼ばれたら、すぐにハイエースを出してまた逃走だ。
同じ手は使える気がしないから、タツコの言う通り町の外にでも出るしかないか。
『なんだ? 殺るのか?』
「殺らないよ!? てか、タツコは手を出すな」
『出す気はない。こう見えても喉あたりがキツいんだ。ほんとは気だるくて休みたいし、歩きたくない』
カウフタンはぐったりだし、タツコは満身創痍。
ぴんぴんしてるのは今、俺だけだ。
だが俺も運動からっきしだし、カウフタンをおぶってるだけで手一杯。
この状況、どうしよう。
「逃げませんよ。ついていきます」
「え?」
「あなた達から、悪意は感じられません。こう見えてもその手のを感じとるのは得意なんです」
突然、こう見えてもと言われても、よくわからない。
ただ教皇になるくらいだから、腹に一物ありそうなのはわかる。
「私には、あたな達がとても天使様方がおっしゃるような、排除すべき者たちとは思えません。ですが、大きな力を持つことだけは、先程の『力』を見てよくわかります」
「何が言いたい?」
「あなたに付き合いましょう」
「……ほんと?」
「ええ。ですがこれは信頼ではありません。私が得たチャンスと思ったからの選択です」
「どういうこと?」
「『神器』たちが、この世界をどうしようとしているのかを知るチャンスです。あなた方から得た情報を必ず教会へ持ち帰ってみせましょう」
それを聞いて俺は、タツコに耳打ちした。
考えてみたら、頭に直接声を伝えられるタツコは、コソコソ話するのに便利だ。
「どういうこと?」
『わかるはずないだろ』
すっごく使えない!?
そうだった、これは『竜』だからこっちのことは興味ないんだった。
『ただ疑っているな』
「ん? 疑い?」
『こいつの上の方。教会の上の方を、疑っているんじゃないか?』
教会の上と言われるとピンとくる。
天使たちか。
天使長キルケ、それに堕天使ケアニス。
彼らの行動を見る限り、たしかに何をしてるのかわからんだろうなぁ。
敵対者の排除をしているのはわかるだろうけど。
それに、天使たちは人間たちからあるものを取り上げている。
アイ以外にも使えていたという『魔法』だ。
もしかしたら、彼女も元魔法使いなのかもしれない。
あるいは、疑っているのは天使たちのさらに上――
「どうしました? 逃げないのですか?」
「逃げよう。人気を避けて隠れられそうなところ、教えてくれない?」
「……わかりました。ご案内します」
強力な仲間を手に入れた?
いや、一時的な共闘といったところだろうか。
タツコの指摘が合っているのかどうかは、まあこの後にでもわかるだろう。
しかし、やっぱこういう組織の上の方はしたたかだよな。
元いた世界でもそうだった。
世界宗教のトップは、ただの敬虔な信徒や、学問としての神学を収めた宗教家ではいられない。
人々の上に立つべく、人の世の表裏を見渡せる、泥臭い政治家にならざるを得ないとかなんとか。
彼女からそういう泥臭い感じはしない。
だがそういえば、あの大司教の方はそういう感じがあったなぁ。




