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160話 町の中か外か

 優秀な魔法のワゴン車は、瓦礫を越えてデコボコの多い教会の事務所の庭を苦もなく走る。

 突然現れて、いきなりスタートできたのも優秀なエンジンのおかげと言える。


 そんな中、鬼たちによってシートベルトで椅子に固定された後部座席のふたり。

 ひとりは気絶したカウフタン。

 これで安全のためのシートベルトで車が急制動で止まったとしても大丈夫。

 怪我が気になるから早く医者に診てもらわないと。


 もうひとりは教皇様。

 鬼たちにびびりまくりで、素直にシートベルトによって拘束される。

 両手両足は自由だが、外さなければ椅子から出られないだろう。


「こ、こんなことして、いったい何をする気ですか」


 今まで鬼たちがガチで捕まえて車内に連れ込んだ女の子たちは、総じて気絶していたはずだ。

 あの公爵令嬢のオフィリア嬢でさえ、鬼を前にしただけで気絶していたのに。

 教皇は震え声だが気丈にふるまっている。


「流石、教皇猊下。鬼たちを見ても気絶しないとは。心の強さはエジン公爵より上ですね」


「ま、まさか公爵にまで手をかけているとは……」


 ……あ、あれ? 何それ?

 なんかすっごい悪いやつみたいになっている?


『お前、かなりの悪党のようだな』


 人類を恐怖のどん底に落としそうな『竜』にまで言われた!?

 と、内心ショックを受けているが、教皇からは正面を向いている俺の動揺した顔は見えなかったようで、話を続けられた。


「私は亜人とも会合をしたことありますから」


 強がりっぽく、少し涙目になって言われて、やばいほんとに俺のこと極悪人のように怖がっている、とさらにショックを覚えた。


「な、なるほど。それはすばらしいですね」


「……心にもないことを」


 ここまで来られたおぬしたちを褒めてやろうと、勇者たちを思いっきり見下し気味に称賛する魔王みたいに思われた!?

 これは、何を話しても、変な受け取られ方をされかねないムードだ。

 どうしよう。


 ……無視しよう。

 ひとまずこいつは人質だ。

 アイたちを助けるのに必要な時の保険に過ぎない。

 ホントは俺、いい人なんだよって思ってもらえるような期待をするのは、逆によくない。

 非情にならなければ。


『それで、どこに行くんだ』


「あ、そうか」


 教皇の執務室のあった建物を壁を壊し、さらに外へと続く防犯用っぽい壁が壊れているので、そこから出るようにハイエースを転がしながら、スピードを緩める。


 不思議なことだが、ハイエースを運転していると、自分の今いる位置が何となくわかる。

 教皇庁に入った時に見た地図と、今の位置、そして思いついた目的地の場所と、そこへ向かう最短距離が頭に思い浮かぶ。


「大聖堂へ行こうか」


『やめとけ。外へ逃げろ』


「マジで? アイたちはどうすんだ」


 やっぱり、この『竜』は人のことなんて関係ないということか。


『ある意味、そのアイたちを助けるためだ』


「どゆこと? まさか外からさっきの攻撃でもするつもり……」


『いや、それは喉が壊れたから無理――って来たぞ逃げろっ!』


 教皇の執務室のあった事務局の前の方まで飛ばされた、あの天使が歩きながらこっちに向かってきた。

 完全武装の天使長キルケだ。


「……貴様ら」


 と、なんかそれっぽいことを言われたのを聞いて、すぐさまアクセルを踏み、ハンドルを切って急発進した。

 その元々いた場所へ、キルケの砲撃のような飛ぶ剣撃がぶち当たり、それを寸前で回避できたことに冷や汗をかく。


「逃げるぞ!!」


『だから、そう言った!』


 ハイエースを跳ばしながら、クラクションをおもいっきり鳴らす。

 道を歩く人たちに、俺たちの存在を気付かせるため。

 そして、人を意に介しそうにないキルケの攻撃を、人々に当てさせないため。


「おらおらおらーっ!! 信心深い敬虔な信徒どもから順番に挽き殺してミンチにしてやるぞーっ!!」


 窓を開けて叫びながらの蛇行運転。

 その蛇行によって、キルケから飛んでくる真力の矢のようなものを回避する。


『こいつには攻撃手段はないのか?』


「戦車じゃないんだよっ。それにあのケアニスから貰った武器でもあれば……」


 カウフタンが、あれで鬼王の攻撃を一度防いだ。

 あれなら、防ぐくらいはできるだろう。

 だが、カウフタンはあの通り気絶中だし、もう使い切っている。


 対抗手段を持っているのは、クオンだけだ。


『なら外へ逃げろ。ほら、そこ門だぞ』


「向こうの方が速い! 遮蔽物のない外に出たらそれこそ狙い撃ちにされかねないぞっ」


『ソロンから逃げきったんだろ? その方法を使え』


 思い出した!

 俺、鬼王から逃げている最中に、剛術が使えるようになったんだ!!


 ハイエースのエンジンに、魔力を注ぎ込むイメージを浮かべ、それを実行させた。

 急激にスピードがあがる!!

 あがった途端に、キルケの姿もバックミラーから消えた。


 ひょっとして振り切れる? なら!!

 と、ハンドルを思いっきり切って、さらに町中を進む。


『おいおい。門から出ないのか?』


「大聖堂へ行く」


『だから無理だって、やめとけ』


「考えがあるんだ」


 剛術も使えるようになり、さらに俺にはもうひとつできることが増えたじゃないか!


「教皇様、ちょっと聞きたいことがあるんだがいいか?」


 うまくいけば、町の外に逃げるよりずっといい。

 確実に助かる方法となるだろう。


 そう思って声をかけたのに、教皇様はすでに白目を向いていて、シートベルトのおかげで椅子に座っている状態だった。

 き、気絶してるっ!?


『君がいきなりスピードを出すからだろう?』


 ごもっともだった。

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