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159話 『竜』の次は教皇

 無駄に広い教皇の執務室のほぼ真ん中に、現れたのは鋼鉄の移動要塞。

 その異様に、そこにいる教皇と大司教は唖然とする。


 俺には、元の世界の町中でよく見かけた主に業務用の作業車。

 ライトファンタジーっぽい世界観な石造りの部屋に鎮座してると妙な違和感しかない。


 だが、この世界では凶悪な破壊力を秘めた鋼鉄の戦車。

 それを自在に操る俺。

 ひょっとして格好いい? 実は格好いい?

 ここでそれっぽいポーズを取ると、アニメのオープニングとかに出てくる、愛機の前にキャラが立つ的な格好良いやつになる? ケレン味ある?


 とか考えていると、タツコに腕を掴まれた。


『何をしている。急ぐぞ』


 格好良さを演出している場合じゃなかった。

 俺は助手席のドアを開けて、タツコを乗せる。

 そして、鬼たちを召喚し、カウフタンを回収して、後部座席へ寝かせる。

 鬼たちも、きびきびと乗り込んでいき、後部のドアを閉める頃には、俺も運転席へ座ってシートベルトを締められた。


 この間、多分1分前後くらいだろう。

 召喚するまで、どう逃げればいいか右往左往していたのが嘘のような手際っぷりだ。

 もうだいぶ、このレンタカーの使い方にも慣れたようだ。


「よし、行くぞ」


 エンジンをかけて、部屋に空いた大穴に向かってアクセルを踏もうとした瞬間、ひとつ思いついたことがあった。


「そうか」


『おい、どうした』


 タツコがまた俺を掴んで話しかけてくる。


「ちょっと待って」


 俺は窓を開けて、目的の方を見た。

 そこには、事態についていけていないが、こちらをジッと見つめている教皇と大司教がいた。


 俺はこう考えてみた。

 アイたちはまだ見つかっていないが、この先はわからない。

 あのケアニスを捕まえた相手だ。

 『竜』と対峙が可能な真力を使う天使たちだ。

 アイたちが捕まらないとは限らない。


 では捕まった場合、救い出すことは可能か。

 カウフマンと戦った時に、天使の力は体感した。

 魔法が少し使えるくらいの乗用車では、まともに戦えない。


 となると……

 いざとなった時に、アイたちが人質になっちゃった時に使える相手として……


 ここにいる人、人質交換に使えないか?


 そんなことを考えていると、彼女と目が合った。

 さっきまでタツコと話していた女教皇だ。


「…………」


 少し怯えたようにしている彼女に見つめられている。

 ああぁ、これは罪悪感がある。

 だが……


「……ごめん」


 と小声で謝り、さくっと召喚した。


「鬼たちよ、女教皇を連れ込め」


 後部座席の扉が勢い良く開き、そこから力に充ち満ちた鬼たちが複数現れる。


「「ひっ!?」」


 驚き怯える教皇と大司教。

 硬直したのを好都合と、鬼たちはテキパキと女教皇を羽交い締めにして口を塞ぎ、ちょっとした小荷物を運びこむように後部座席に連れ込んだ。


「え? お、おい! 何を――」


 流石は人類の指導者層のひとりである大司教。

 思ったよりも早く我に返り、鬼たちによる無慈悲な凶行を止めようとする。


 だがその前に、屈強すぎるほど屈強な鬼たちが立ちふさがる。

 ぎょっと立ち止まる大司教。


「やめろ、暴力は振るうな」


 鬼たちに命令するが、そもそもそんなことはしないぜ俺たちは、っていう感じの態度の鬼たちだった。

 その様子にホッとした時、大司教と目が合った。


「すみません、ちょっとお預かりします。必ずお返ししますので」


 この物言いも、まるでご近所さんに何か簡単なものを借りるレベルに軽かった。

 俺、ひょっとしてすでにこういう行為に手慣れてしまっている?

 軽くショックを覚えた。


 だがアイたちの身の安全と、自分たちが助かるためだ。

 俺の人としての良心と、女教皇の身柄拘束は、仕方のない犠牲として処理することにした。


 そして鬼たちも収納すると、ハイエースでタツコの開けた大穴から外へ。

 その際に残った大司教のかすかなつぶやきが、確かに聞こえた。


「あれが……『神器』アイ様の召喚戦士……めちゃくちゃだ」


 俺の評判はかなり最悪だった。

 てか俺って、この世界に来て、こいつでやったことって……


 拉致未遂。

 『神器』で最後の女魔術師に、女騎士に、クノイチ。


 ガチ拉致。

 おにゃのこ化した衛兵隊長。

 おにゃのこ化した『竜』。


 そしてここに新たな戦果が刻まれる。

 帝国の国教の最高位である女教皇。


 俺、かなりとんでもないことをしてるよな。


「し、仕方のない犠牲か。虚しいものだな」


 そんな俺にタツコが触れて言う。


『君、とんでもないな』


「帝都を占拠して人々を恐怖のどん底に落としていたお前に、言われたくないわっ!!」


 俺の声だけが、車内で反響した。


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