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158話 タツコの心の声

 教皇の執務室は埃が舞っていた。


 吹き飛ばされたのは天使長キルケ。

 その飛ばされた方向に建物はえぐれ、大きく穴が空いている。


 瓦礫となったそこからは濃い砂埃が舞い、外からざわざわとした人々の声が聞こえる。

 丁度空きスペースの多い敷地内だったから良かったものの、町中で今のをぶっ飛ばされたら何人もの死人が出ていただろう。

 てか、死人出てないよな?

 あ、キルケは?


 この状況を作った元凶は?


 間違いなく、堂々と立ち尽くすこいつだろう。

 この『竜』という種は、人のことなど考えもしなさそうだ。


「タツコ!」


 仁王立ちするタツコに対して、突っかかる。


「今のって『竜の息(ブレス)』じゃん! 使えないって言ったじゃん!」


 タツコはうなずき、声を出そうとして喉を押さえた。


「……んぐ」


 何度か喉を鳴らすが、苦々しそうにしただけで話さず。

 口からペッと血をツバのように吐き出す。


「おおっ、結構な血だぞ!? タツコ、やられたのか?」


 近づいて傷を見ようとするが、逆にタツコが俺の腕を、むんずと掴んできた。

 見た目よりもずっと力があって痛い。


「な、なに? 痛いんだけど」


 と話すと、突然頭の中で強く響く。


『使えないとは言っていない』


「なっ!? な、なにこれ……頭に直接声が、っていうか意思? タツコの意思?」


『この体はもろい。『竜の息(ブレス)』を使ったら一発で喉がいかれた』


 そう言いながら、俺を掴んでいない手で大穴を指さす。


『さらにこの低威力。こんなの前の体なら鼻息で余裕だ』


 それはわかった。

 『竜』の体で起こす現象と、人の体で起こす現象とじゃ全然違うってことだろう。


『ってことで、さっきのはこれで終わり。もう打ち止めだ』


「じゃあ、鬼王と戦ってた時みたいに爪とかは?」


『この腕で? 余計に無理だろ』


 タツコは自分の細腕で力こぶを作ろうする。

 色っぽい二の腕が見えただけだ。


 確かに女の子にしては力はあるだろう。

 でも多分、純粋な力で言ったらウルシャやクオンの方が上なんじゃないだろうか。


「そうか。ほんとにできないのに無理してやったから、喉が潰れちゃったんだな。治せればいいが……落ち着いたら、医者に診てもらおう」


 そういえばこの世界の医者っているのか?

 いないわけないが、治癒魔法とかは……ないか。

 アイが最後の魔法使いだったっけ。


 あ。亜人の使う剛術なら、あるいは……


『イセ、落ち着いている暇はないぞ。この低威力だ。キルケがすぐ来る』


「え? あれでやられてない?」


 むしろ死んだ可能性すら考えていたのだが、あれで無理か。

 そりゃそうか。

 あのケアニスと同じ真力を使う天使なんだ。


「よし、さっさとずらかろう」


 タツコの腕を今度は逆にこっちが掴んで引っ張ろうとしたが、彼女の体は動かなかった。


「タツコ?」


『君がカウフタンを担いで、あの天使から逃げられると思うか?』


 いきなり聞かれて驚いたが、無理としか思い浮かばない。


「あれ? 状況的にすでに詰んでる?」


『ならどうする?』


 どうすると言われたがどうしようもないんじゃないか。

 でもってだとしたら、俺もタツコもきっと、あの天使長に殺される。


 あれは、彼らの知らない『力』を持つ者を排除しようとする者たちだ。


『あれがどうしようとするのかわかるだろう? なら君がどうすればいいのかわかるだろ』


「いや、どうしろと」


『呼べ』


「え?」


 何を呼べ?

 控え室に残した鬼は、今ようやく走ってやってきて姿を見せたところだ。

 カウフタンを運ぶのなら、むしろ余裕で助かるが、さっきのキルケの攻撃を前にしては、とても頼りない。


『あの車を呼べ。あれがあれば我らは生き残れる』


「いや、無理だ」


 ハイエースは、呼べば来る代物じゃない。

 タクシーじゃないんだ。

 自動操縦もない。


 前にキルケに捕まった時は、アイたちが無理矢理運転してきてくれた。

 今回はそれは望めない。


『ハイエースというのか』


「あ、心の中、読まれた」


『ハイエースを呼べ。君なら呼べる』


「何言って……」


『呼べる』


 あまりにも強く、宣言されて思わず聞いた。


「マジで?」


『間違いない。我を人に変えた君が、それくらいできないわけがない』


 確かに『竜』をおにゃのこ化するって、相当なものだと思う。

 あの鬼王や完全武装の天使たちを相手に、まるで無傷な相手だったんだ。

 それをこの可憐な姿に変えてしまう『力』だ。


「マジか」


『まだ自らの力の使い方を知らぬ素人か。ではどうだ? ハイエースを初めて使った時はどうだった?』


「えっと、それは……」


『思い出してみろ。そこに手がかりがある』


 まるで何でもお見通しな師匠キャラみたいなことを言い出すタツコ。

 その姿に、ちょっとアイのことを思い出した。


 そう、アイに言われてまず俺はハイエースを自分の目の前に出現させたんだった。


「……頭の中にまずイメージが出来た。『力』のイメージ」


 そう呟くと、そのイメージが頭に浮かんだ。

 木々の中に隠してあるハイエースが、くっきりと頭に浮かんだ。


 ハイエースを初めて出現させた時、アイはすごいエネルギーだ的なことを言っていた。

 そのエネルギー的なものを、今なら俺も感じ取れる。


「魔力……これか……?」


 遠くにある『力』との繋がりが感じられる。

 これ、引っ張れる?


『いけそうだな』


 そのひと言で、俺は自信を持てた。


「タツコ、ちょっと離れて」


 タツコが離れると、彼女の意思が頭から消えた。

 その状態で、俺は頭の中に浮かんでいる明確なイメージを、掲げた手の方へと出現させた。


「『至高なる(エース・オブ)鋼鉄の移動要塞(・ハイエース)』よ。再び現れよ」


 放出されていた遠くにあるものが、再び俺の中へと収束する。

 そしてそれがまたひとつの形に放出された。


 魔力の光を強く放ちながら現れたのは、あの鋼鉄の移動要塞。


至高なる(エース・オブ)鋼鉄の移動要塞(・ハイエース)』だ!!


「よしっ!! 新たな力の発現だ!!」


 叫んだ俺を見て、タツコは満足そうに微笑んだ。


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