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157話 天使長キルケ襲来

 天使長が降りてきた天井を見上げると、ほんの少し青空が見えた。

 上からの入り口になっている、ということだろうか。

 まさに天使専用の出入り口か。


「何故、ここにいると分かったんですか、キルケさん」


「アイの手下達が教皇庁に来たと報告を受けて、ここまで駆けつけたまでだ」


 俺の質問に、キルケはあっさり答えた。

 真力で武装している者は、人間では相手にもならない。

 そのことがわかっているからこその余裕だろう。


 キルケは俺を睨む。


「目的はケアニスか」


「そうだ。彼を返してもらう」


 ほんとはこっちはこっちで、タツコの目的があったのだが。

 一応こっちは(おとり)で、本命はケアニス救出ではあった。

 嘘はついていない。


 キルケの目は細められ、俺を見据える。


「返してやってもいい。捕まえた『竜』を無力化している状態で差し出せばな」


 ちらりとタツコを見て、タツコもこっちを見ている。

 俺は、メッセージ性の強い視線を送った。


 いいか、絶対に何も言うなよっ!


 タツコは、こちらの意図がわかったかのように頷いてくれた。


「我が『竜』だ」


「そうじゃないよっ!」


「え?」


「言うなって意味だよっ」


「……なんと」


 タツコが俺を見て驚いている。

 マジで通じていない。


 戦力ほとんどない状態で、タツコにバラされた。

 どうすんだ?


「あなたたち、連携全然取れてないですね」


 教皇が呆れて突っ込んできた。


「アイ様の元に集まった者たちと言えば聞こえはいいですが、ただの烏合の衆です」


 カウフタンが真面目に応えたのは、教皇猊下を無視してはいけないという気持ちの表れか。


「「なるほど」」


 教皇と一緒に聞いていた大司教も納得の声を出す。


「だからウチの諜報の精鋭たちが翻弄されているんですね。何考えているのかよくわからないと」


「予想外のことばかり、起こしてますからね」


 カウフタンが、教皇と仲良く話して、俺を睨んでいる。

 お前はいったいどっちの味方なんだ?


 そしてカウフタンの視線は雄弁に語っている。

 その予想外のことは、全て俺が起こしている、と。


「いや、俺じゃなくて、ハイエースだから」


 応えるものの、教皇と大司教は首を傾げるだけ。

 カウフタンの冷淡な視線は、変わらない。


 そして、そんなカウフタンの視線よりもずっと、敵意を込めたものを感じる先がキルケだ。

 俺ではなく、タツコとにらみ合っているが、ふと苦々しく顔を歪めた。


「まさか、ここまで無力化できるとは」


 キルケは、それをしたのはお前か、という敵意を俺に向けてきた。

 まったく隠さないそれは、もはや殺意に等しい。


 背筋がぞくりとした。

 逃げないと!?


 そう思った瞬間に、キルケは光の刀のようなもので斬りかかってきた。


 死んだ!?


 死を感じた時、抜刀したカウフタンが俺の目の前で吹っ飛んだ。


「ぐっ!?」


 かすかなうめき声と共に、カウフタンは壁へと吹き飛ばされ、思いっきり叩きつけられた。


「カウフタン!!」


 あの一瞬で、カウフタンはキルケの攻撃よりも早く抜刀し、真力の攻撃を受け止め、俺の代わりに吹き飛ばされた。


「ううぅぅ……」


 身じろぎしたのを見て、まだ生きているとホッとした。

 だが、死にかけなのは間違いない。

 まるで車にはねられたかのような、吹き飛び方だった。


 そして頭から血が出たのか、額から頬にかけて、可愛い顔に赤い滴りが見えた。


「キルケッ!!」


 叫んで呼んだそいつは、まだ真力の武器を手に俺への殺意を緩めていなかった。


「お前にあの『力』を使う暇は与えぬ」


「鬼よ!!」


 待合室にいるはずの鬼を呼ぶ。

 だが真力の武器が振るわれるのは、俺と声と同じタイミングだ。


 どう考えても間に合わない。

 俺の第2の人生はここで終わりか。


 あの交差点でトラックにぶつかりそうになった瞬間を思い出した。

 しかも、あの時より冷静だ。

 自分に向かってくる、殺意が込められた圧倒的な力の圧力が俺の目の前に迫っている。


 あの時も事故死だったが、今回もこれ事故死だろ。

 元の世界よりも、ひどい人生だった気がする。

 そう感想を持った時に、もうひとつの『力』に気づいた。


 真力の武器よりも広範囲に渡って吹き出してきた魔力。

 それは衝撃波のように俺の目の前を流れる。


 真力の武装をしていたキルケごと、吹き飛ばすに足るだけの力が、俺の直前を流れた。


 見覚えがあった。

 帝都のそばで見た。


 鬼王と天使たちが、必死になって回避したアレだ。


「『竜の息(ブレス)』……」


 そいつを放ったのは間違いなく、タツコだった。


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