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156話 タツコの指摘

「呼べるなら、わざわざ鬼を連れてこないよ」


 俺はタツコに苦笑しつつ、そう言った。


 ハイエースを自由自在にここに呼び出せるなら、無理して鬼を連れてこなくてよかった。

 鬼をつれてくるのに苦労していたのを見て、タツコは不思議と思っていたのだろうか。


「なら、どうやってここから出るつもりだったんだ?」


「それは、教会のこんな最深部っぽいところまで来るとは思ってなくて」


「教皇に会いにいくと言ったぞ? 教皇がいるところがどうして最深部じゃないと思うんだ」


 言われてみるとそうだ。

 そうだが……


「まさか、ここまですんなりと会えるとは思わなかった。てかそもそもこうして会えるとすら思ってなかった」


「我が、会えないと思ってたのか?」


「はっきり言うと、うん。教皇に会えなくて町中うろうろして終わりになるかなと。ねぇ」


 カウフタンの方を見て同意を求める。


「…………」


 否定しなかったので、同じ気持ちだったようだ。


「そうか……少しショックだ」


 お、まさか、そこまでとは。


「す、すまん」


 少しだけ殊勝そうな顔をしたが、またいつもの堂々とした顔に戻るタツコ。


「だが面白いな君。そこまで我を見下してくる人間は初めてだ」


 ショックからあっさりと立ち直ったタツコが、俺を感心する。


「あぁ、そうかもしれません。私達が普段から意識しているようなことを、こいつは些細なことと見下してくるところがあります」


 タツコの発言に続けて、カウフタンがはたと気付いたように手を打って言った。


「カウフタンから見てもそうか。珍しいよな? 何を考えているのかいまいちわからない」


「こいつ、現れてからずっとこんなですよ」


「あれか。召喚される前の異世界の考え方が出ているのか」


「そうかもしれませんが、こいつ自身がただ失礼なだけの可能性もあると思いますよ」


 ここぞとばかりに仲間にディスられる俺。

 アイたちもそうだが、何故か悪し様に言われることが多い。

 これが異世界転生者の宿命か。


 しかし、カウフタンにそこまで言わせるくらい失礼だったか。

 この世界の礼儀、わからんなぁ。


「あの、みなさま」


 ふと、俺たち3人に、教皇が声をかけてきた。


「落ち着いて話してますが、何故そこまで余裕がおありなのでしょう?」


「「「…………」」」


 思わず黙ってしまう。

 確かにそうだ。

 余裕こいている場合ではない。


「タツコのマイペースっぷりに影響されてたが、すぐに逃げないとやばいか」


 ふと、教皇と大司教の方を見る。


「上手く逃げられそうな裏道とか教えてくれない? もしくは聖職者の法衣とか貸してもらえたりしない?」


「そこまでする義理はないし、逃亡そのものを手助けするつもりはない」


 はっきりと拒絶されたので、こっちからの逃げ道はないと判断した。


「もし捕まったら、アイ様にご迷惑がかかる。急ぐぞ」


「ああ。正面から出て、そのまま人混みに紛れようか」


「鬼はどうする?」


「合流して、追っ手がこないことを確認したら消す」


 そう伝えると、カウフタンは頷いた。

 そして、さあ行きましょうとカウフタンが部屋の扉を開けようとしたその時、タツコがまだ余裕そうに話しかけてきた。


「イセ、ダメで元々なら呼んでみろ」


「はい?」


「あの馬車。呼んでみろ」


「……マジ?」


 何故にそこまで強引に言い出すの?


「君の力は、君も知らんのだろう? なら呼び出せるかもしれないじゃないか」


 言われてみて、なるほどと思ってしまった。


「なるほど、ダメ元か。やってみよう」


「そこで納得するのが、私にはわからない」


 カウフタンは、呆れ気味に言った後、扉のノブから手を離した。

 止めても無駄と、判断したらしい。


「よし……」


 鬼を召喚する時のように集中する。

 魔力の繋がりのようなものを意識する。

 そして、両手を目の前に掲げて、えいやーっと、気合いを込めて出す!


「来い! 『至高なる(エース・オブ)鋼鉄の移動要塞(・ハイエース)』!!」


 叫んだ瞬間、天井からブアッと空気の圧力という感じの風が降りてくる。


「来た!? ハイエース!?」


 しかも空から来た!?

 俺とカウフタンは、顔にかかる風を手で遮りながら、突風と共に降りてくるその勇姿を見た。


「……あ」


 その勇姿は、黄金の輝きを放つ鎧をまとった天使の姿。

 見た瞬間、教皇と大司教が、その場で跪く。


 数日前に、帝都で見かけたあの天使長の姿がそこにあった。


「おい、何をしていた?」


 威圧感のあるよく通る声。

 間違いない。


「この場にこいつらを呼んで、いったい何をしていた?」


 顔を伏したまま、大司教が応えた。


「教皇猊下に会いに来た者が『竜』を名乗りましたので、足止めをしておりました」


 そうなの!? と俺とカウフタンは見る。

 表情からはわからないが、何となく焦っているように見える。

 口からでまかせかもしれない。


「アイの召喚した戦士、まさかここに来ているとはな。探す手間が省けた」


「天使長キルケ……」


「あの後、どうなったのか洗いざらい吐いてもらうぞ」


「吐けるようなこと、あるかな……」


「たくさんあるな。まずはアイのいる居場所を教えてもらおうか」


 よしっ、アイたちはまだ捕まっていない!!


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