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155話 面会の終わり

「なりません猊下!!」


「いいんですか? タツコ様には気付かれてますよ?」


「ぐぬ」


「私の秘密なんて、ティトゥス様的にも、最重要の秘匿のひとつと比べたらそれほど重要ではないですよね?」


「ぐぬぬ」


「むしろ今、タツコ様が何故私を影武者と指摘したのか、いえ何故できたのか。そこ、気になりませんか?」


「ぐぬぬぬ」


 教皇ツァルク14世が、何故か大司教ティトゥスを追い詰めている。

 しかも、さっきもあったが、教皇が大司教を様呼ばわり?


 教皇は本当に影武者なのか?


「なぁ、イセ。こいつらは何を話しているんだ?」


「さあ。多分俺とカウフタンが一番の部外者。タツコが一番わかってると思うぞ」


「ふむ。ならなんで大司教が、教皇より偉いんだ?」


「わからん」


 俺は言い争いをしているっぽい教皇と大司教に向き直る。


「あのー、そろそろ俺たちにも分かるように、洗いざらい話してくれませんかね?」


「そうだな。協力ってどういうことだ。我は別に協力してくれなんて言ってないぞ」


「…………」


 俺とタツコは突っ込んでいるのに、カウフタンは何も言わない。

 教皇と大司教を知っていた彼女にこそ、質問してもらいたいのだが。


「カウフタン、質問するならこのタイミングだぞ」


「……私はただの衛兵隊長だぞ。畏れおおいんだ。お前と一緒にするな」


 どうやらこの世界の常識的には、俺とタツコは外れているらしい。

 西欧の中世っぽい世界観の教皇と大司教だもんな。

 元いた世界で、俺がイメージできた天皇や首相よりも、もっと上の存在感あるイメージなんだろう。


 そういうことなら質問要員として、カウフタンは使えない。


「タツコに協力って……あ、そもそもタツコの目的って何? 蚊帳の外すぎてわっかんねぇ」


「まあ、そうだなぁ……話していいか?」


 タツコが何故か、教皇と大司教に聞く。

 意味がわからない。

 教会の秘匿に関することだからなのはわかるけど。

 内容がおもいっきり、まずいのか。


 誰にとってまずいのかって、俺たち?

 それとも俺たちと繋がりのある、アイ?


「あ。アイに知られたらまずいって話ならさ」


 俺は、俺の知っていることを教皇と大司教に話す。


「アイなら、タツコの秘密を知っているぞ」


「「えっ!?」」


「な、なぜですかっ」


「それはアイに我の頭の中を覗かれたからだ」


「どういう……あっ! 人の心を操るというアイ様の魔法ですかっ!?」


「そうそう、それそれ」


 アイの魔法はやはり有名か。

 今に残る唯一の魔法使いだっけか。

 それに天使が忌み嫌っている魔法の使い手だしな。

 教会の上層部的に、知らないわけがないか。


「ほ、ほら、ティトゥス様」


「ぐぬぬぬぬ」


「もう、手遅れですって」


 眉間にしわを刻んで、ぐぬぬぬと唸っていた大司教。

 しばらくして、下を見ていたが、おもいっきり天をあおぐ。


 大司教が見た方を、思わず見る。

 部屋の大きさの割には、天井が高いなと。


「……ふぅ」


 そして、体の中に溜めていたものを吐きだして、こっちを見た。

 明らかに、今までと違い、目が座っている。


「わかった。そうしようか。おいおぬしら」


 口調まで、どこかぞんざいになる大司教。

 こっちが素なのか。


 そしておぬしらと呼んだ相手は、俺たちだった。


「もう帰ってくれ」


「はい?」


「そこのタツコとやらが、予言の竜であるならば、我らにとっては確かに救いになるだろう」


「ですよねっ、ティトゥス様っ」


「だが、今は『竜』ではない。人だ」


 大司教は、タツコをじっと見据える。


「あなたは『竜』に戻ってみせられますか?」


 タツコは無表情のまま、俺の方をちらりと見て言う。


「ああ」


 思いっきり嘘をついた。


「どうやら戻れないようですね」


 そして、嘘があっさりバレた。

 この大司教、そういう真偽を見ることに自信があるみたいだ。


「ティトゥス様のこういうところ、ほんっとに抜け目ないですから、バレてますよ」


「猊下、お静かに」


 恫喝するような視線を見せてくる大司教を前に、教皇は口をおさえて引き下がった。

 そして大司教はタツコを見る。


 タツコに対する大司教は、多分タツコを本物の『竜』と思っている。

 態度には表さないが、どこか敬意をもって接しているのがわかる。


「タツコ殿、ここで今、強引にことを起こしても初代様は助けられません」


「…………」


 タツコは、もしかしたら初めて、ここにきて表情を変えた。

 ていうか、少しだけ感情が見えた。

 目が細められ、苛立ちや怒りが見え隠れしている。


 ていうか、初代を助ける?


「あなた方がこちらに来てからずいぶんと時間は経ちました。天使様たちもそろそろ気づく頃合いかと」


 天使と聞いて、今度は俺とカウフタンが神経を尖らせる。

 そうだった。

 アイたちが今、向かっているのは天使たちがいるところ。

 彼らに捕まっているはずのケアニスを助けに行っているところに、天使たちがいるんだ。


 ここに俺たちが来ていることも、すでに気づいてるかもしれない。


「さあ、お引取りください」


「知らせたり捕まえたりしなくていいのか? 今なら簡単だぞ?」


「簡単とは思いませんし、こちらも猊下をお守りしながら無事で済むとは思えませんから。手を出さない方が無難です」


 それは暗に、俺たちが彼らにとって役立つかもしれない、という意図をこちらに示した言葉なのかもしれない。

 そのことを確かめるには、もう時間はないだろう。


「じゃあもう帰るか。おいイセ、例の馬車を呼べ」


「はい? 呼べないよ?」


 タクシーかハイヤーと勘違いしているような感じで、軽く言われてびっくりした。


「え? そうなのか?」


 タツコ、呼べると思ってたのか……


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