154話 『竜』の予言
タツコが『竜』の予言を聞いた瞬間、教皇は黙る。
もちろん、俺は知らない。
カウフタンを見ると、知らないっぽい。
そして、大司教の方を見ると、教皇と同じような反応をしているので、知ってるっぽい。
ってことは、教会の上の方の秘匿的なものかな?
タツコが本当に、伝説の竜騎士の竜なら、そういうことを知っててもおかしくないか。
「知らんのか? なら教えてやろう」
「お待ち下さい。それは教会にとって最重要と言ってもいいものです。故にここで口にされるのはお控えください」
「ならば追い出せばよかろう。おいイセ、カウフタン、それとそこのも、出てってくれ」
「タツコ様、もうひとつ。あなたがあの『竜』であり、初代様の竜、チェイン様であることも、私には確認できません。故に」
まるでタツコを睨みつけるように、これ以上のことがあれば敵対する意思を示すような態度で言った。
「秘匿されている内容を、あなにも開かすわけには参りません」
「なるほど。仕方ないな」
それを聞いたタツコも、気付いたようだ。
それでも、その話は続いた。
「なら、我からは昔馴染みと話した、ちょっとした雑談について話そうか。そいつはツァルクって名前のガキでな、別れ際に約束したんだ――」
「待って! 待って! 待ってください!」
教皇は先ほどとはうって変わって、おろおろしつつタツコに近寄る。
「こっそり、私の耳元でこっそりと!」
「猊下! そこまで近付くのはっ!」
「だ、大丈夫ですっ、ティトゥス。タツコ様には敵意はまったくありませんからっ」
「それはわかっています。ですが、猊下がそのようなことをなさるのは……」
「いいんですっ、タツコ様の話す『竜』の予言と、伝承との差に、私、興味ありますからっ」
大司教はティトゥスというらしい。
そのティトゥスが、教皇を止めようと近付こうとするものの、彼女はすでにタツコの前で耳を傾けている。
「ささ。こちらに小声で」
「ふむ。話すのは止めておこう」
「なっ!?」
「そっちで残っている話と、どう変わっているのか検証したいが、それじゃできんからな」
「あ、なるほど。そこを確かめたかったんですね」
「まあな」
教皇は、ティトゥスの方を見る。
ティトゥスは、ふうと眉間にしわをよせて息をついた。
そして気付いた。
教皇は、ほんの少しだけ、ティトゥスにむかってお辞儀をしたように見えた。
その違和感は、俺の中ですぐに消えるはずだった。
それくらい微かなものだった。
「ツァルク14世、と言ったな。血縁関係者じゃないとも」
タツコは教皇に確かめるように話しかける。
教皇はそれに対して肯定した。
「……君は、本当にツァルクではないんだな」
「? そう言いましたが?」
「そうではない……君は影武者だ」
「っ!?」
「さもなくば傀儡と言ったところか」
このタツコの言葉に、一番驚いたのはカウフタンと大司教ティトゥスだった。
そして、もっと驚きそうな人……教皇はフッと笑った。
「どうやらタツコ様の前では、どうやら隠し事は難しいようですよ、ティトゥス様」
「げ、猊下!?」
「タツコ様、半分は正解、半分は不正解です。私は影武者でも、傀儡でもありません。ですが本物とも違います」
「お、おい、待て……いや、お待ちください猊下!!」
「ティトゥス様、なんでしたらここで今、先ほどの秘匿を話しますか? そうすればタツコ様も疑わないでしょう。ですが、アイ様の戦士のおふたりを前にしてになりますが」
ティトゥスが、俺とカウフタンの方を睨む。
え? 何? 何か俺たちの存在もキーになるようなことなの?
どうもそんな感じがするくらい、ティトゥスはぐぬぬという反応をしている。
いったい、何の話をしているの? タツコと教皇、説明してくれ。
「ツァルク14世。何の話をしている? わけがわからん。説明してくれ」
タツコも分からないらしい。
となると、教皇だけが、タツコが語ろうとしたことと、そして影武者か傀儡かという指摘の重要性を話すことができる、と。
「こちらにも色々事情があるのです。およそ一千年も続いた組織ですから。中身はかなりごたごたしています」
教会は一千年前からある。
その時代にいたという『竜』のタツコ。
いったい何が聞ける?
俄然、面白くなってきたんじゃないか?
「タツコ様、『竜』の予言を教えてください」
「おぬしが本物の教皇ではないのに、か?」
「ええ。場合によっては……」
教皇は、今度は今まで以上の余裕の笑みを見せた。
いや、むしろこの状況を喜んで受け入れているようにも見える。
「あなた様に、協力ができるかもしれません」
俺もカウフタンも、そしてタツコも、教皇の言葉に首を傾げる。
ただ、大司教ティトゥスだけが「なっ!?」という反応で、大口を開けていた。




