152話 伝説の竜騎士
待合室でしばらく待っていると、やってきたのは見るからに高位の者とわかる立派な法衣の聖職者だ。
彼はこちらを見て、それから周りを見る。
「チェイン様は、どちらにおいでですか?」
「我だ」
とタツコがいうと、その聖職者はうやうやしく礼をとる。
見るからに驚いた様子は見せていないが、タツコを見て驚いたのはわかった。
「猊下がお待ちです」
「猊下? 誰だ?」
「ツァルク教皇猊下です」
タツコがわからなかったのは、きっとその偉い人の尊称のことだろう。
ツァルクという名前を聞いて、うんと頷いた。
「ご案内いたします。どうぞこちらへ」
ご案内という言葉がこれほど合わない人はいない、という感じがした。
どちらかというと、この聖職者は人に傅かれている側の人間じゃなかろうか。
そう思わせる貫禄があった。
その彼の案内に従い、ついていくタツコと、その後に続く俺とカウフタン。
カウフタンは明らかに衝撃を隠せないって顔をして緊張していた。
「カウフタン、あの人ってやっぱり偉い人?」
「大司教様だ。本来なら帝都の大聖堂にいらっしゃる方だぞ」
「そりゃ偉すぎる」
もういろいろ会いすぎて、それくらいだとどれくらい偉いのかピンとこないけど。
「タツコ様は、いったい何者なんだ? 本当にあの『竜』だったのか?」
カウフタンがこそこそ声で俺に聞く。
それについては俺も知りたい。
そして、なんとなくある程度予想はついている。
「カウフタン、ちょっと教えて欲しいことがある」
「なんだ?」
「アイたちが前に言ってたんだ。伝説の竜騎士っていうのは昔いたって」
「ああ」
「どういう話がわかる?」
「……わかるもなにも」
カウフタンは半ば呆れ気味に語ってくれる。
「まだこの帝国の形もなく、人も亜人も分かれて暮らすこともなかったほどの大昔の話だ。この世界を救った騎士。伝説の竜の背に乗り、世界の危機となる悪魔たちを追い払った英雄」
「それが……」
それが伝説の竜騎士の言い伝えか、と話そうと思った。
だが、思わぬところから、さらに話がくわわった。
「その英雄がツァルクだ」
前を歩くタツコが応え、ぎょっとする俺とカウフタン。
「そうだよな?」
「はい。伝承にあるツァルク1世その人です」
タツコが聞き、答えてくれたのは案内役をやっている大司教だった。
「救世の英雄にして、その死後初代教皇となられました」
「死後かなるほど」
タツコがそう言った。
「チェイン様は、ツァルク1世の関係者でございましょうか」
大司教は軽く聞いている。
が、それは探りだろう。
これから教皇に会わせる人物がいったい何者なのかを、事前に知ろうとしているのだろう。
そしてそれは俺も知りたかった。
元『竜』のタツコは、この教会にとっていったい何者なのか。
「その大昔って言われる頃に、我がツァルク少年に背を貸した。そんな関係だ」
大司教とカウフタンが唖然とする中で、俺は内心――
やっぱそうか!!
と思った。




