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14話 街乗り

 何をぶつぶつ言っているのわからないので異世界語と名付けるが、アイは異世界語でつぶやき終わると、両手をかかげる。


「あっ!?」


 何かに気づいて慌ててこっちを見てくる。


「何?」


「んっ!」


 んっ、と言った後、視線とか顎とかで、扉の方を向く。


「外?」


「んっ!」


 当たったようなので、窓を開けた。

 するとアイは、外に向かって両手を広げて前に出す。

 まだ異世界語が口から紡がれ、強い魔力が放出されていく。

 力強く勢いよく出ていくというよりも、濃厚な煙の塊を両手から放射しているような感じだ。


 その魔力の籠もった煙が、外へ出ていくと霧散していく。

 霧散というより、意図をもって広がっていくような感じだ。

 どこに向かっている?


「……ふぅ、疲れた」


 アイが魔力の放出を終えると、疲れ切った顔を見せて息をついた。

 賢者モード? とか聞いたらシモネタで怒られるかもしれないが、ここはもう日本じゃないから大丈夫だったと思いなおすが、だったら余計に賢者モードという単語が通じないと思い直して無言を貫いた。


 と、そんなことを思った後、ふとなんだか違和感があった。

 ここにいることに抵抗があるような違和感。


「アイ、何をした?」


「……ここにいたくなくなったか?」


「それだ。言葉にするとしっくりくる。ここに居たくないぞ。気持ち悪い。なにこれ、魔法か?」


 言うとアイは苦笑して口にする。


「町の大通りに出たくない心境になる魔法だ」


「なにそれ!? そんなことできんの?」


「ああ。こういう魔法は魔法にかかったことに気づくのは稀だ。おぬしみたいに魔力に敏感だったり、魔法の力を使える者だったりしなければ、単に『道に出るのやめたいな』って思うくらいだ。なんで嫌なのかは、おそらく各々で勝手に理由を着けるだろう。今はトイレに行きたいから出たくないとか。家の中がぬくいから出たくないとかな」


「へえぇぇぇぇ!? そんな便利なのあるんだ」


「アイは、心に訴える魔法に関してはなかなかのものだぞ」


「すごいなぁ。天才魔法使いか」


「ふふふ、まあな」


フフーンと自慢げになるアイ。いい気になっても可愛く見えるのはこの幼女の特権か。

もっと調子に載せると、ボロ出すかな。


「ここだけの話なんだがな。エジン公爵閣下は人がいいから。世にも珍しい人間の魔法使いに援助してやりたくなる気分になる魔法をかけたんだ」


「詐欺! それ詐欺行為!」


「詐欺じゃないもん! 魔法研究の貢献をさせてあげたんだよっ」


 アイが恩着せがましい。

 天才ってこんな感じか? なんかそれっぽいな。


「まあ……いいことをしたとは思ってない」


「洗脳だしな」


「そこまで!?」


 洗脳ってわかってるのか。


「仕方なかったんだ。アイには魔法しか取り柄がないし、魔法は人間社会には嫌われているものだ」


「あ、そうなんだ。便利じゃん。使い方さえ間違えなければ」


「そう考えてくれる人が多ければいいがな。それに魔法とは『魔』法だ。良い物かどうかと言われると、アイは良い物とは思えない。邪道な手段と言えば邪道な手段が『魔』法なんだ」


 魔法を使った後の得意げな様子とは裏腹に、アイは真剣な様子で言う。


「だから、助けてくれた公爵閣下には、せめて報いたい。イセ、ここからは頼む」


「わかった。行こう」


 街路を見ると、あれだけいた人がまばらになっている。

 そのまばらな人たちも、道の中央付近ではなく、建物側にいる。

 これなら速く走っても大丈夫そうだ。


 と思っていると、バックミラーに後ろからやってくる衛兵たちの集団が見える。


「あれ? 普通に来るよ?」


「道に出たくないってだけで、行くぞって気持ちが強い奴には無意味なんだ」


「精神抵抗に成功されると、効果消滅ってやつか。大丈夫なのか? 簡単に抵抗できるんじゃないか?」


「むしろ都合がいいはずだ。この魔法を受けてまで街路に出てくるようなのは、アイたちを邪魔しようとしてる者か、謀反を起こした衛兵たちだ」


「なるほど。物は言いようだな」


 アイの言ってることにはツッコミどころというか甘さはある。だがこれ以上街の人たちを気にしていると、公爵令嬢を救い出すという目的達成に支障が出る。

 この辺が覚悟の決めどころだろう。


「よし、それじゃ行くか」


 アクセルを踏んで、ハイエースを走らせる。


「令嬢はどっち?」


「んー、あっち」


 感覚的なナビだが、信号もなければ一方通行もないので、これくらいで大丈夫。

 俺は街路を進む。


 街路にしては大通りだとしても、ハイエースが通れるのは馬車が通れる道だけ。

 しかも現代日本と比べると、とにかく狭い。

 それでも、俺はアイの感覚的なナビを聞きながら、細い道をくねくねと進む。


「ん? おかしい」


「どうした?」


「俺、運転上手い。ほら、こんな狭い道でもスイスイだ」


 車幅ぎりぎりの道を、なんの抵抗もなく入り、車体をこすらずに無事抜ける。

 あれ? 俺ってこんなに上手かったっけ? と自画自賛し、ニヤニヤしてしまう。


「そもそも自動車すごいから、アイはわからん」


「そうだった。初めて乗ったんだもんな」


「あの細い道、行けるか?」


「余裕」


 スイスイとまるでレールの上を走っているかのように俺は走らせる。

 やべ、街乗り楽しい!


「おお! すごーい」


「はっはっは……ってアイ! 緊張感! 緊張感維持!」


「おう! 忘れてた」


「令嬢、助けるんだろ? 忘れるな」


「うむ。車、楽しくて」


「だろ?」


 運転褒められたみたいで嬉しい。


「あ、通り過ぎたぞ。あっちだ」


「おう! 緊張感維持!」


 ぐだぐだになりそうな運転をしつつ、進んでいると……


「イセ、もうすぐだ。すぐそこだ」


「わかった。行くぞ……あ、そうだ。アイ、こんな車でやってきても、そのオフィリアさんから信頼得られるように、上手く説得してくれよ」


「自動車すごいから大丈夫だ」


 自信満々のアイだが、ウルシャの不審げな目を俺は忘れていない。

 乗車拒否されなければいいが。


「今度、街に来る時は、もっと楽しく過ごせる時がいいな」


 アイの言葉には、純粋にドライブを楽しめるのはまだまだ先、というニュアンスが含まれているように聞こえた。


「平和になったら、ドライブに行こう」


「ドライブってなんだ?」


 そこから説明は長いのでめんどくさい。

 と考えていたら――


「あそこだ! 捕まえろ!!」


 窓の外から声が聞こえた。

 その暴力的な声に、俺とアイは目を合わせ、俺はアクセルを強く踏んだ。


 声の方向から、もう場所はわかる。


「道はあってるぞ! そのまま行ってくれ!」


「了解!!」


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