146話 両者のハッタリ
タツコは陽動作戦について話し始めた。
「まず我たちが教皇に会いに行く。あの『竜』が自ら話にやってきたと聞けば、教皇庁は大騒ぎだ」
「教皇庁がどんなところかわからないが、まあそうでしょうね」
「で、我と教皇が話している間に、アイたちがこっそりと教皇庁へ潜入する」
「ふむふむ」
「…………」
タツコは黙った。
「……以上?」
「以上だ」
「やばい」
「は?」
しかもやばいことに気づいていない!?
流石、元『竜』。
いちいちやることが大雑把だ。
あの巨体さ故に、繊細さに欠ける。
タツコのヤバさに気づいたクオンとカウフタンは、目を見開いて絶句中。
多分、一番繊細さに欠ける俺だからこそ、口を開けたのかもしれない。
「タツコいいか? 俺とカウフタンは教皇に会う理由ないから、俺たちもアイと一緒に行くって選択肢はないか?」
やばい作戦からは離れるのが一番。
というわけで、そんなことを提案してみた。
「別にいいが」
「あ、いいんだ」
じゃあそうしようと、カウフタンの方を見ると、いやいやいやっと激しく横に首を振っている。
なんだ? このヤバいのに乗ろうというのか?
「我だけでいいんだが、君らは我を監視しなくていいのか?」
「監視って。しても意味ないでしょ。あんな力の差を見せつけられて監視してれば制御できるのかっていうと、できないだろ」
「…………」
タツコはキョトンとして、それから「あ、なるほど」みたいな表情をつくった。
「ま、それならそれで自由にやらせてもらおう。帰る時は迎えに来てくれ」
タクシーか何かと思っているのかそんなことを言うタツコ。
「どっちかというと、追いかけてきて欲しいけど場所わからないから、どこかで合流がいいか。帝都はどうだ?」
「無理。遠すぎるだろ」
こいつ何言ってんだ? ハイエースで1日の距離なら飛んですぐだろ? と思っていたら、カウフタンが俺の席の後ろに張り付いて、耳打ちしてきた。
首あたりがこそばゆい。
「イセ。私とおまえとでついて行った方がいい」
「何故?」
そっちに行った方が危ないぞ?
ハイエースは目立つから町中まで入れられないし、アイの魔法の支援もない状態だぞ。
そこでタツコに暴れられたらこっちも危ないぞ。
そんな俺が思っていることなんて百も承知という感じで、カウフタンはこそこそ声で語る。
「タツコ殿は、イセの力がとても強いと勘違いしている。だから監視と言っているんだ」
「強い?」
確かに補給なしで動けるし、鬼たちも出てくるし、おにゃのこ化光線も出るし、よく走るし、便利だけど、あの『竜』と比べたらしょぼすぎるぞ?
って考えたところで、ハッと気づいた。
「……そうか」
カウフタンは俺のひと言にうなずく。
タツコは勘違いしている。
俺の力は、まだまだこんなものじゃない、と。
だから俺がついていくことで、タツコを牽制できる。
ほんとは力なんてないけど、ハッタリを効かせてタツコを言うこと聞かせることができる。
「この二方面作戦、のるぞ」
カウフタンは言う。
このハッタリでタツコを操れれば、ケアニスの救出の成功率はあがる。
タツコの力ならば、天使達も全力であたらなければならない。
アイたちに向かう戦力も減るだろう。
「わかった。のろう」
相変わらずハッタリばっかりで気疲れ半端ないけど仕方がない。
俺はタツコに向かって言った。
「タツコ。やっぱり俺とカウフタンが一緒に行くよ。どっかで合流は面倒くさいし」
「だろ? 決まりだな」
タツコはにやりと笑った。




