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144話 二方面作戦案

 早朝、ハイエースは軽快に道なき道を進む。

 相変わらずアスファルトで舗装された道路を走っているような進み心地だ。


「しばらくこの川沿いを進むっす」


「了解。結構人多くない? 今、見られたけど」


「流石に仕方ないっす。鋼鉄の馬無し馬車の伝承がこの辺でも起こるかもしれないっすね」


 帝都やサミュエル自治領へ向かう時は、人目を気にして夜の移動だった。

 今回は天使や鬼王たちが追手としていたため、夜の移動はライトを灯すので非常に目立つ。

 だから昼間に移動をするということになった。


「教皇庁って人が多く集まるんだよな? そこにハイエースで向かっていいの?」


 まあ、エジン公爵領の城下町で乗り回しているので、気持ち的には今更ではあるが。


「いえ、流石にその前に降りて、車を隠して、旅人に偽装して潜入になるっす。ケアニス殿がわかりやすいところにいてくれるなら、一気に潜入もありなんすけどね」


 オフィリアを助けた時は、潜入していたクオンからの連絡があったし、アイが場所を特定できていた。

 今回はそういうのが一切ないから無理と。


「それに、教皇庁と敵対ではなく、あくまでケアニス殿救出っすから。僕らの相手は天使様たちっす」


「天使と教皇庁ってやっぱり違うのか」


「全然違うっす」


 クオンから教皇庁について簡単に説明してもらった。


 教皇庁は、簡単に言うと帝国の領土内にある自治領だ。

 帝国の中にある数多くの貴族領や自治領と同じく、教皇庁の直轄地が存在する。

 教会として神の教えを守る護教の騎士たちを多く有し、お布施という形で金を帝国各地から集める土地だ。

 流通の中心としてサミュエル自治領が興るまでは、金融・流通、そして武力の中心地であったと言っても過言ではなかったそうだ。

 帝室は教皇庁の下僕、とまで言われたこともあったと言うくらいの権勢を誇っていた時期もあったとか。


 今でも帝国領内には多くの教会があり、『竜』が政治の中心たる帝都を占拠してからは、仮の帝都と教皇庁が政治の中心地。


「つまり、その政治の中心地のひとつにこれから殴り込みか」


 聞けば聞くほど、楯突く相手がでかいなぁと思う。

 まあ神を目指している『神器』に召喚されたわけだから、仕方ないのか。


「教皇庁から、天使たちを襲撃しようってことか。君たちもなかなか大胆だな」


 運転しているにも関わらず、俺はびっくりして後ろを振り返り、また前を見る。

 そしてバックミラーでも確認する。


 確認した相手は、座っているソファを軽くなでてさわり心地を確かめていた。


「ふぅん。なるほど。これはくつろげる空間だな」


 起きていたタツコさんがこっちを見ている。


「おはようございます」


「おはよう。で、昨日の話の続きをいいか?」


「アイは起こさなくていい?」


「君に聞きたい」


 さようですか。とうなずくものの、内心焦る。

 勝手に女の子に変えた相手が、怒らないってありえんからな……


「君のその力、心当たりはないのか?」


 ネットスラングが元のハイエース。

 でも女の子にしてしまうまでは、聞いたことがない。


「元の世界の娯楽作品、っていうか物語に男が女に、竜が人間にっていうのはよくありますが、それが力の元かというと違うような気がします、はい」


「……よくある?」


「はい。意外と」


 擬人化の派生みたいなものと考えれば、娯楽作品全盛期の今より前から比較的よくある物語ではある、はず。


「君が元いた世界と、こちらの世界をつなげた時に起こった力ということか? うーむ、わからんな」


「何か思い当たる節でも?」


「いや。ただ魔力で人や我の形そのものを変化させるというのは、神の力に等しいなと」


「それ、アイにも言われました」


「だろうな。だが君はそれが何なのかわからない」


「はい」


「お手上げだ」


 タツコは少し不機嫌気味にそう言って、軽く手をあげるジェスチャーをする。

 俺に対する不機嫌じゃない。

 他の何かに対する不機嫌、といった様子だった。


「それで、これって教皇庁に向かっているんだよな」


「そうっす」


 ようやく話に関わることができたとばかりに、クオンが答えた。


「丁度いい、教皇とは会って話がしたかった。この格好ならあっちも話しやすいだろう」


「え? どういうことっすか?」


「君、名前は?」


「クオンっす。アイ様付きの間者っす」


「間者か。なら教皇のいる場所を見つけて案内してくれ」


「無理っす。僕はアイ様たちとケアニス殿を助けに行くっす」


 恐れ知らずのクオンが、タツコに対してずばずばと拒否していく。

 内心焦る。


「『神器』ケアニスか。捕まっているって言ってたな」


「タツコさんは、ケアニス殿をご存知?」


「同じ『神器』だからな。キルケと相対しているんだろ? 見ててわかった」


 どうやらタツコは、だいたい把握している模様。


 タツコは少しの間、思案顔になった後、言う。


「よし。ケアニスを助けに行く組と、教皇に会いに行く組とにわかれよう」


「何いきなり仕切ってるんすか!?」


「ケアニスを助けるための陽動として、我たちが教皇に会いにいく。その間にクオンたちはケアニスを探せ」


「なるほど! タツコさん、僕たちの手伝いをしてくれるんすね」


「今はそれが都合がいい」


 タツコがサクサクと決めていく。

 それに乗るクオン。


 いいのか?

 と思いつつも、それを聞きたいアイは、ウルシャを枕にすやすやと熟睡中だった。


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