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143話 ウルシャの説得

 深夜の混沌とした言い合いの中で、鋭い声がした。


「恐れながら!」


 大きくないが、まるで剣を振るう時の気合いの籠もった声はウルシャのものだった。


「申し訳ございません、アイ様、タツコ様」


 ウルシャは全員に向かって声を出して注目を集めた後、アイとタツコを指名した。


「これから我々は、教皇庁へケアニス様を助けに向かいます」


「う、うん。わかっているぞ」


「ですので、アイ様には少しでも休んでいただきたいのです。おそらくまた魔法を使うことになるでしょう。その時の集中力を確保するためにも、今ここで言い争いをして興奮するのは控えてください」


「お、おう」


 アイは素直に言うことを聞いた。

 次はタツコと、ウルシャは矛先を変える。


「タツコ様。会話中に口を挟んでしまい申し訳ございません」


「よい。続けてくれ」


「ありがとうございます。こちらのイセの操る車は、道中でも柔らかい椅子に座りくつろぎながら対話も可能な代物です。雨風も気にせず過ごすことができます」


「ほう」


「ですので、早朝に教皇庁へ向かう道すがら、存分にお話されるとよろしいかと思います」


「……君、名は?」


「ウルシャ。『神器』アイ様の護衛です」


「わかった。従おう」


「ご配慮、ありがとうございます」


「出発する段階になったら起こしてくれ」


「わかりました」


 ウルシャの返事を聞いて満足したのか、タツコはカウフタンへと近づく。


「君の枕は寝心地が良かった。また頼めるか」


「え? あ、はい、喜んで」


 カウフタンが座り、その膝を枕にしてタツコは横になった。

 そして横になった途端、すぅすぅと静かな寝息をたてはじめた。

 まるで疲れている中、無理して話していたかのように、寝入ってしまったのが見てわかる。


「……はぁ」


 カウフタンは、その様子を見てため息をつく。


「ウルシャ、代わりに見張りを頼めるか?」


「わかりました」


 そういえばカウフタンが見張り当番だったか。

 そんなことに気づいたあたりで、ひとまず場は収まったとわかったのか、どっと疲れが出た。


「はぁ、目が冴えてしまった」


「アイも」


「おふたりともわかるっすけど、横になって少しでも疲れを取り除いてほしいっす」


 クオンの言葉にアイがうなずく。


「わかった」


 アイはさっきまでウルシャと一緒にくるまっていた毛布を自分に巻きつけ、横になる。

 俺もそれに習って横になる。

 枕代わりの服の入った袋に頭を預けた途端、また疲れを認識した。


 仰向けになると、星がまたたく綺麗な夜空が見えた。


「はぁ、意外と落ち着く」


「だな。野宿はいい」


「偉い『神器』っぽくないが、アイっぽいな」


「大して偉くないからな」


 そんな返事に、思わずくすりと笑ってしまう。


「んじゃおやすみ」


「おやすみ」


 そのひと言の後、体からすーっと力が抜けていくような気分になった。

 眠れないかと思ったら、すんなり眠れた。

 思った以上に疲れていたのかもしれない。


 そして気づいたら、クオンが体をゆすっていた。


「イセ殿、起きるっす。もう朝っすよ」


「まだ眠い」


 念願の可愛い女の子に起こされる夢が叶ったが、がっかり感の方が強かった。


「お疲れで不機嫌なところ、申し訳ないっすけど、コレ飲んで欲しいっす」


 クオンがコップ一杯の薄い紫がかったお茶のようなものを差し出してきた。


「お茶?」


「いえ、僕も任務中に使っている薬水っす」


「薬……」


 まあ悪いものじゃないだろうと思ったし、寝起きで喉が乾いているし、薬っぽい苦そうな感じがしないしってことで、ぐびっと半分くらい飲むつもりでコップを傾けた。


「ぐっ、まずっ」


「しばらくしたら、意識が鮮明になるはずっす」


「滋養強壮剤みたいなものか」


 そう思うと、効き目の強い栄養ドリンクのように思えて、苦くても飲めた。


「さ、イセ殿、運転よろしくっす」


 起き上がると、アイもタツコもまだ寝ていた。


「アイ様たちは、僕らが運びいれるっす」


「その方がいいかも」


 またあの口論と責めを食らうと思うと、げんなりするので丁度いい。


「んじゃ乗せたら、クオンたちも寝てていいから……あ」


「僕が道案内するっす。この辺の地理はだいたいですが把握中っす」


 シガさんとの会話からの情報と、星の位置等から割り出したとのこと。

 ナビみたいな精度だな。


「んじゃよろしく」


「了解っす。多分、イセ殿の車なら、1日もあれば余裕で到着するっす。それからイセ殿はまた休んでくださいっす」


「え、そんな近いの?」


「いえいえ。徒歩や早馬では1日なんてとても無理っす」


「あ、そうか」


「お忘れかもしれませんが、イセ殿の車は神速っすよ。鬼王様のように速く走れるのが普通じゃないんす」


 にっこりと笑うクオンに言われて、そういやそうだったと、思い出した。

 よし、拉致ったりおにゃのこにしたりっていう謎力じゃなくて、ハイエースの本来の力を存分に見せてやろう。


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