13話 突撃
「アイはな。『神器』として神になり、この世界をより良い方向へ導きたい」
またえらくでかいこと言い出したぞ、この幼女。
「そのために異世界の『力』あるものを呼び出したんだ」
「俺?」
こくり、と力強くうなずくアイ。
「……俺?」
「そうだ」
はっきりと自信満々に言われる。
でもいくら自信があってもダメだと思う。
召喚したのがただの大学生で、能力がハイエースじゃ……
「協力してくれ、イセ」
「わからん。てか、全然わからん。神になる言われても、具体的にはどうするんだ?」
「……そこか」
「そこだ。重要なのはそこだ」
アイは黙って俺のことを見つめている。
どうすれば『神器』が神になれるのか、そのやり方を俺に話すには、覚悟がいるのかもしれない。
大切なことだからこそ、俺を見定めているのかもしれない。
「話しにくいならいずれでいいよ。今回のこの件が終わってからでも」
「いや、今でいい」
覚悟を決めたように、アイは俺をまっすぐ見据える。
「どうすれば神になれるのか、実はわからん。誰も知らないんだ」
「……誰も?」
「ああ、他の『神器』に聞いても、誰も応えられん」
「ちょっと待った」
「いや、本当にすまない。もっと明確にこうすれば神になれると話せればよかったんだが」
「そっちじゃない。今、他の『神器』って言ったよな? アイの他にもいるのか?」
「そうだが?」
また、当たり前の常識の話みたいだ。
『神器』同士で、神になる競争してるってことか?
「うむむ……いまいちよくわからんのだが……」
「あ、連絡来たぞ」
アイが今気づいたという風に言い出した後、鳥が飛んできて葉を落としていった。
書かれているのは、町の門扉はすぐにでも開くそうだ。
「よし、行こう」
「ああ」
木陰に隠したハイエースにふたりして乗り込む。
神にいたる方法やら、他にいる『神器』については、またあとで。
今は公爵令嬢救出という大仕事に意識を集中しないと。
「なあアイ。やっぱり全速力で突っ走って、一気に門を抜けた方がいいよな」
「なんで?」
「いや、自動車目立つって言ってたじゃないか。門開いたら怪しい馬のない馬車が近づいてきたら、流石に焦って門閉めるだろ」
「おお、そうだな。おぬし、よく考えているな」
アイが意外と細かいところを考えていないのがわかった。
エジン公爵家のことを考えてとか、魔法研究とかしてるし、『神器』とかいうものみたいだし、頭は悪くないんだろうけど……
「それじゃ全力疾走だ」
なんだかとても残念な幼女に見えてきた。
まあ、俺が召喚されたくらいだしな。
「わかった。全速力だ」
「わわっ!?」
いきなりかっ飛ばして、アイは突然かかったGに驚く。
驚いた直後に笑顔になるので、アイにはご褒美みたいだ。
「おおっ! いけいけーっ!!」
「はい、よろこんでー」
アクセルを、べたっと踏む。
自動車教習所で急ブレーキ制動を体験する時にやって以来かもしれないくらいのベタ踏みだ。
この世界には、信号も対向車も気をつけなきゃいけない跳び出してくる車もない。
城下町が緊急事態で出入りが制限されているのか、町の外に人影もない。
今まで通ってきた中で、最も広い街道を、ハイエースは爆走する。
爆走できるくらい、まるでアスファルトの上を走っているかのようなグリップ力で、がんがん進む。
「あそこだ! あそこの門が開いている!」
町の城壁の門扉が開いていくのが見える。
それと同時に、門の上の物見台や、下にいる兵士っぽい人たちが慌てているのも見えた。
閉めろ閉めろっ、と言っているみたいだ。
「イセ、突っ込め! これを逃したら、中に入れない!!」
中に入れなければ、公爵令嬢は救えない。
アイから笑顔が消え、焦っているのがわかる。
迫りつつある城壁に、少しひるんでいたが、気合を込めてアクセルを踏み続ける。
もし、しまった門や、城壁に激突したら、今度こそエアバッグが出てくるかチェックになり、せっかくの自動車もオシャカになるだろう。
「アイ、事故ったらすまん。でもこのまま行く」
「……わかった。イセに託す」
おもわず苦笑してしまう。
「なんだ、笑って」
「まだ会って1日も経ってない俺に託すって、よっぽど切羽詰まってるんだなって思ってさ」
「否定はしない。だがアイは人を見る目はあるつもりだ」
大した自信だが、こういうところもまた『神器』だったり、魔法が使えたりするからこその自信の現れなのかもしれない。
「あっ!? イセ、門が閉まるぞ! 閉めようとしてるぞ!!」
「むっ」
もっと速くとなんとかしようと思うが、すでにベタ踏みなのでこれ以上はない。
あとは町の衛兵たちが、俺たちの侵入を許さないように対処するか、それとも俺のハイエースが滑り込むか。
伸るか反るかの大勝負が来た。
「アイ、どこか捕まってろ」
「う、うんっ」
シートベルトと椅子をギュッと掴むアイ。
この子に痛い目みせるのは、遠慮したいが行くしかない。
それがアイの望みなのだから。
でも中世ヨーロッパの城壁のある町のようなところなので、門扉は狭い。
だから、少しのハンドル操作ミスで壁にぶつかる可能性がある。
さらに門扉を閉める衛兵たちの中には、門のそばにいる者もいて、もしかしたらひいてしまうかもしれない。
この世界で起こす交通事故の罪の度合いってどんなだろうか?
「ごめんっ、死ぬなよっ!!」
初めて、神様か仏様に、真剣に祈ったかもしれない。
閉まりかけた門へ入り、門の近くにいる衛兵たちを轢いたり飛ばしたりすることもなく、城壁にできた門を一気に越えた。
「「おおおおおおっ! 危なかったっ!!」」
がつんっとサイドミラーが、衛兵にぶつかったが、それくらいで誰も轢かずに町へ入ることに成功した。
「「やったっ!!」」
同じ気持ちなのか、さっきから言ってることがシンクロしている。
この一体感、まさに結婚直前だ。
そして、そんな気持ちを思いっきり吹き飛ばす、まさにファンタジーという感じの町並みが広がっていた。
「す、すげぇ! テーマパーク見てぇだ! 再現度高っ」
言ってて、再現もなにも、こっちは本物なんだよと、心の中でセルフツッコミを入れ、なんとか穏やかにさせる。
それに感心してる場合でもない。
「ウルシャの回収は?」
「まだだ。オフィリアが先だ」
「了解」
と、走り出そうとしたところで、またブレーキを踏み直した。
「やばい」
「どうした?」
「このままじゃ人、相当轢くことになる」
公爵領の城下町とはいえ、どんなに大きくても、このハイエースが通れる道は限られていて、町の大きな通りくらいだ。
そこには、町の人がまばらにちらほらいた。
「行け、イサ」
「轢き殺せと言うのか!?」
「違う。アイが魔法でなんとかする」
「できんの?」
「やれる」
まじで?
俺の焦りを無視するように、アイはぶつぶつと呪文の詠唱に入った。




