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133話 イセの『剛術』

 鬼王が巨大化した。

 王宮の庭園にいた『竜』を、街の外まで放り投げた膂力を持ち、魔力や真力に頼らず、ただ物理的に『竜』と戦い続けた、あの巨大な鬼王が後方に出現した。


 『竜』のスピードを一瞬だが捉えた鬼王の剛術の極み。

 それがほんの少し後方に現れた。


「行くっす!」


 クオンと、そしてウルシャが窓から飛び出そうとする。


「「待てっ!」」


 それを止めたのはアイ、そして――俺だ。


 アイの意図はわかる。


「イセに任せろ」


 そして自らふたりを止めてわかる。

 俺は自分に課した。


 迫りくる鬼王を何とかするのは俺の役目だと。


「シートベルト!」


 俺が叫ぶと、ウルシャは外そうとしたベルトを再び締めなおす。

 クオンもそれに倣い、カウフタンは自らのそばへ元『竜』だった女の子を抱き寄せる。


 彼女たちは全員ハイエースに固定された。

 今の俺はハイエース。

 つまり、俺に託された。


 一瞬の間で決断され、実行された皆の覚悟。

 多くの戦いを経験し、戦いぬいてきた戦士たちの覚悟。

 まず彼女たちの覚悟を、俺は真似た。


 だからこそわかったのかもしれない。

 巨大化した鬼王は、簡単にハイエースを掴むことができる。

 足の遅い虫でも捕まえるかのように。


 手加減しなければ、虫を殺すかのように、簡単に踏み潰すこともできる。

 その恐怖を、俺は借り物の覚悟で振り払う。


 そして、鬼王の巨大化の剛術の発動を思い出す。

 アイに鬼王の剛術を見ろと言われた瞬間から、俺の意識は鬼王に向いていた。


 魔力の流れすら感じられる俺の感覚は、鬼王の剛術の発現が見えていた。


 鬼王は、己の中に湧き出す魔力を利用し、己の中にのみ通じる魔法陣のようなものを作り出していた。

 小規模でありながら、ものすごい勢いと量の水を受けて回る水車のようなものに感じられた。

 その魔力の流れを利用し、術に変換する。


 鬼王の巨大化は、その水車のように力を発揮する魔法陣によって、変換された結果だ。


 つまり、本質的には魔法と変わらない。

 魔法は外に満ちる魔素を利用して結果を導くもの。

 剛術は内から湧き出す魔素を利用して結果を導くもの。


 今の俺には、その仕組みと同じものが備わっている。

 俺、すなわちハイエースという自動車を動かすための動力。

 爆発力を利用して回転する力を得る、エンジンだ。


 剛術の極みである巨大化なんていうことはしなくていい。

 ただ、エンジンの中で起こる爆発力をさらに強く、小刻みに起こせばいい。

 しかもその仕組みはすでにできている。


 アイの言う通りだ。

 あの剛術の極みまでのことはしなくていい。

 ただ一部、真似ればいい。

 それだけで、俺は――爆発的な加速が得られる。


「しっかり掴まれ!! 衝撃に備えろ!!」


 叫んだその時、巨大化した鬼王の手はハイエースのすぐそばまで来たのが見えた。

 車内にいる皆が衝撃に備えろと言われ、身を固くした。

 その一瞬――


 俺は、ハイエースを一気に加速させた。


「「「「っ!?」」」」


 乗っていた者たちの身体の全てが、進行方向と逆側に押さえつけられた。

 スピードで視界が狭まった。


 加速は、ほんの僅かの間。

 一分もなかったはずだ。

 そして、何がどうなったのか、鬼王には捕まらなかったのか、それを確認するために後方に意識を向けた時には、巨大化した鬼王の姿はほとんど見えないくらい遠くにいた。


 俺は、巨大化した鬼王からかなり遠ざかったのを確認しても怖かったので、さっきの要領でさらに力の限りハイエースを走らせた。


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