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132話 剛術の天才

 俺はアイに出来る限り小声で話しかける。


「なんとかってどうすんだ?」


「おおぉ、耳元だけで聞こえる……器用だな、イセ」


「へぇ、そう聞こえるのか。それでどうすんだ?」


「…………」


「顔を逸らしても、俺からはよく見えてるぞ」


「マジで、どうしよう」


 アイの気持ちはよくわかる。

 俺も、ふたりから託されているからわかる。


 そんな中、あれだけのスピードで走っていた鬼王は急に立ち止まる。

 こっちだってかなりのスピードを出しているから、一気に引き離す。


「やったのか? さっきの反撃、効いてた?」


「違う。気をつけるんだ! 仕掛けてくるぞ!」


 ウルシャのひと言の前に、カウフタンとクオンは、いつでも飛び出せるように身構えた。

 引き離せたと思った直後のウルシャの警戒の台詞。

 そこから何かしてくると、鬼王を見た瞬間に見た。


 鬼王は、大地に足の指をつきたて、地面スレスレに跳躍してきた。

 その爆発的な加速は、走っていた時の比ではない。

 そして、その加速に、俺はまったく対応できなかった。


「クオン、支えろ!!」


 頼もしい声の主はカウフタンで、いきなり屋根に飛び出した。

 そしてクオンは黙って、ハイエースの屋根に立つカウフタンの足を掴む。

 クオンの腰は、後部座席のシートベルトと縄で結ばれている。


 鬼王の一撃を防いだ後、クオンはそこまで準備していた。

 とても即席の連携には見えない。


「うおおおおおおおおおおっっっ!!!!」


 カウフタンの雄叫びと共に、手にした長剣が輝きを増す。

 真力を一気に解放しているとわかった。


 あともう少しで鬼王が後部の扉に頭から突っ込んでくる。

 その瞬間に、カウフタンの長剣はハイエースすら被うほどの黄金色に輝く半透明な盾となり、飛んできた鬼王をはじき返した。


「痛ぇぇぇぇぇっ!!!?」


 弾かれた鬼王は、盾に遮られて、飛んできた勢いのまま地面を転がる。

 今度こそやったかと思われたが、転がりながらもあっさりと体勢を立て直し、また走り出した。


「なんだあの化け物は!?」


「化け物だよ!!」


 俺の皆の気持ちを代弁した疑問は、アイのひと言で説明なされた。

 皆、同じ気持ちだ。


 アレは化け物だ。

 あの『竜』と肉弾戦をして耐えきった化け物だ。

 それが今、ハイエースを捕まえようと迫っている。


 そして車内に戻ってきたカウフタンは、憔悴しきった状態で倒れるように座席に座る。


「俺の羽根はなくなった」


「げっ!?」


「あとは僕とウルシャさんのだけっす」


 カウフタンと同じことができるのは、あと2回。


「えっと、その間に……アイ様、何かないっすかね?」


「無茶言うな!!」


 ついにアイがキレた。


「イセ、何とかしろ!」


「こっちに無茶言うな!!」


「さっき言ってた、ヒトガタとかになればどうだ?」


「だから、できなかったんだって!? それにトランス○ォームできても、アレと闘うのや嫌だぞ!」


「それで逃げればいいじゃん!」


「スピードは出ないんだよ」


「ならスピードだせ」


「それが出来れば苦労しないよ!! もっとスピード出てくれぇぇ!!」


 頑張ってアクセルを踏む感覚になるが、出ない。

 鬼王は、さっきみたいに跳んできたりしないし、ジリジリと追いついてくるスピードは出てないが、ちゃんと走ってついてきている。


「イセ、それだよ。それ!」


「それ?」


「スピードアップだ」


「やってるよ」


「もっとだ」


「どうやってだよっ」


「剛術だ」


「は?」


「剛術を使ってスピードアップだよ」


「剛術なんて使えねぇよ!?」


 そう言った後、何故かアイは黙って、後ろを指さす。


「あれを見ろ」


「……は?」


「鬼王をよく見ろ」


 うむを言わさぬ迫力で、アイはさらに言った。


「鬼王が使っているのが、剛術だ」


「それは、わかってる」


「わかるだけじゃだめだ。理解しろ」


「何を言って――」


「いいかイセ。あれは剛術の天才だ」


 アイは力強く、説得してきた。


「あの巨大化も、あの走りも、あのジャンプも、あの剛術の天才が使う、剛術の極みだ」


「だ、だから……何?」


「一部でいい。あの剛術の真似をしろ」


 アイが言うのは無茶だ。

 真似をしろって?

 天才って言ってることだぞ?

 それを一部でも真似ろって……


 でもアイの言葉には、力があった。

 本当のことを聞いている、ような気分になった。

 アイが俺に託すだけの、思いがある。


 そういう気分になったのは、アイの魔法なのか?

 いや、魔法が使われれば、俺は感じ取ることができる。

 魔力の流れは見えるから。


「……剛術か」


「そうだ」


 アイがそう応え、頷く。

 アイと同じように、ウルシャもカウフタンもクオンも、俺に託している。

 この場を切り抜けられるのは、俺だけだと。


「ちょこまかと動くなーっ!!」


 鬼王の叫びが聞こえ、ヤツが再び巨大化した。


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