125話 イセの選択
「『竜』を助けるんだ、イセ」
また同じうめき声を出して、アイはガクッと気絶した。
「「「「…………」」」」
アイの言葉を聞いたウルシャ、クオン、カウフタン、ケアニスが俺の方を黙って見る。
「え……ええぇぇ……」
みんな、アイの言うことに困惑している。
そして……託された俺の判断を待っている。
「……ウルシャさん、アイは起きない」
無言で頷かれた。
「なんで助けないといけないか……わかる?」
だれも答えず、首を横に振るだけ。
どうすんだこれ……
てか、今、目の前で鬼王に蹴られて、天使たちの真力の武器でボコボコにされている『竜』を、俺が助けるの?
「あっ!? シガさん!!」
ガラケーを手にとって声をかけるが……電話が切れている!?
「さっきの大魔法で、ここら一帯の魔素が使われた影響が出たんじゃないかと思います」
ケアニスが丁寧に説明してくれた。
「だーーっ、こんな時に使えないんじゃ、持ってきた意味ないよ! だいたいこの状況を作ったのシガさんたちでしょうがーっ!!」
正論を言っても始まらないが、言わずにはおれない。
それくらい……俺に架せられた問題は緊急で大問題だった。
あのアイが、大魔法を仕掛けて『竜』を止めたアイが、途中で魔法を解除し放り投げてまでして、助けろと言った。
ケアニスでも、他の『神器』にでもなく、俺に言ったのだ。
なんとなくいつもみたいに、身近な俺にねだっただけかもしれないが、そうじゃない可能性がある。
すなわち……
「……アイは俺に……アレを『ハイエース』しろと言っているの、か?」
アレとは『竜』のこと。
鬼王と天使の猛攻をものともしなかった『竜』のことだ。
皆が黙ってこっちを見ている。
俺と同じ結論のようだった。
ここに来る前に話していたことだ。
俺のこの『力』が通用するかもしれない、しないかもしれない、と。
通用する可能性がある。
だからここに来た。
でも現ナマの『竜』を見て、通用するしないの問題ではなく、もうこの生き物には勝てないよって気分で、そういうのとは違うところで心はポッキリ折れていた。
なのに……
「アイが、そう言うのか……」
俺は改めて居住まいを正し、シートベルトを確認し、ハンドルを握る。
「行ってくる。降りてくれ」
「私は行くぞ」
「僕もっす」
「当然だ」
ウルシャはアイと共に助手席に留まる。
後部座席のクオンとカウフタンも、シートベルトをした。
「私は天井にいますから」
黙っていた皆が、意気揚々とハイエースに居座った。
「いいのか? 危険だぞ? 怖いぞ?」
「一番怖がっているのはお前だ」
「戦士殿が行くのに、我々が行かないのはおかしいっす」
「アイ様の命令……いやお願いだ。イセ、頼む」
「アイと一緒にこっちに残っていいんだよ」
「このお願いをしたのはアイ様だ。一緒に行くのが筋だろう」
「ははっ、主君に厳しい護衛だ」
「自覚はしている」
言いながら、気を失っているアイの頭をそっと撫でる。
いいですよね? と問いかけているようだ。
「まぁ……みんな乗っててくれた方がたしかに好都合だ。『竜』をかっさらった後、引き返さずそのままトンズラできるからな」
ギアをドライブに入れて、アクセルをじわじわと踏み出す。
「んじゃ、行くぞ」
ハイエースは、『竜』と鬼王と天使たちの神話の戦いの最中へ、走り出した。




