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124話 天才の魔法

「ほんとに魔法体系の復活かと思いましたよ……」


「一部、復活させている。ここまでしないと、『竜』の精神に浸食はできない」


「ははっ、まさに天才だ」


 ケアニスは、アイのこともなげに言ったことに笑う。

 ほんの少し焦り側なのが、ケアニスをして本当に天才ってことなんだろう。


 積層式魔法陣は、じわじわと動く。

 時には全体的に回転し、時には形を一部変化させて、『竜』を囲う。

 まるで光で出来た檻に『竜』を閉じ込めているように見える。


 『竜』の力をもってすれば、魔法陣の排除は容易いだろう。

 だが、魔法が作用しているのは『竜』の精神だ。

 さらには、『竜の息(ブレス)』を吐いた後のタイミングで仕掛けたので、『竜』側に大きな隙があった。


 これも、シガさんの作戦のうちのようだ。


「やるね」


 鬼王はそのようなことを言いそうな態度で微笑み、一旦休憩とばかりに巨大な体をほぐし、呼吸を整えている。

 体の内に強く溜まる魔力が感じられる。


 鬼王が使うのは『剛術』と言ったか。

 あれもまた魔力を使う、魔法の亜種なのかな。


「こんなものを構築できるのか……」


 そして宙に陣取る天使たちの長、キルケは悔しそうに『竜』とアイを交互に睨んでいる。


 天界は魔法の法を壊した。

 二度と、人間に魔法が使えないように。


 それによってシガさんはこっちでの命を失い、ほとんどの魔法使いは魔法が使えなくなった。

 魔法の法を壊しても、魔法を構築することができたアイだけが、魔法を使えた。


 そんなアイが今、必死になってあの『竜』に魔法をかけている。


「アイの魔法、効いているな?」


「ええ。見ればわかりますよ」


「見えないからな」


 シガさんそう言いながらも続ける。


「『竜』の魔法に対する抵抗力はすでに実証済みだ。以前行われた『竜』攻略では一切効かなかった。だからアイには最高クラスの、最大限に巨大な魔法を構築するように伝えた。それでも五分五分だった。だが、本当に効いているようだな。戦っている音がまったく聞こえなくなった」


「いったいどれだけの魔法陣を重ねているのですか……」


「見えないからわからん」


 カウフタンの質問に、シガさんはにべもなく答えた。


「世界の構造すら理解しているのではないですか?」


 俺たちの会話に混ざるケアニスの疑問。

 そこに、ある種の鋭さを感じた。


 アイが言った天界が魔法を危険なものとして排除したという話。

 ケアニスもまた、同じように感じているのではないか?


「世界の構造がわかったら、アイが『神』なんじゃないか?」


 軽く言われたそれで、ケアニスの緊張がやわらいだ。


「そうだと、いいですね」


 そして俺たちが話している間も、アイは積層式魔法陣を操作し続ける。

 その間も、『竜』は微動だにせず、光の檻に閉じ込め続けられている。


 そして、ふいにアイの気配が変わった。

 その変化は、このあたり一帯に漂う『魔素(マナ)』にも影響した。


 俺だけじゃない、この辺りにいた皆が、一斉に気付いた。


 アイが、突然魔法を解いたのだ。

 その途端、積層式魔法陣はじわじわと消えていく。


「よっしゃっ!!」


 アイが解くのと同時に、ダッシュで踏み込んだ巨体鬼王の体重を載せたパンチが、『竜』の体にねじこまれ、今まで散々やられていた鬼王のように吹き飛んで、地面でもんどりを打った。


「効いたか? まだまだだな。硬ぇ硬ぇ」


 手をぶるんぶるん振りながらも、手応えを感じてなのか嬉しそうな鬼王。


 天使たちも、倒れた『竜』へ追い打ちをかけるように真力の武器を幾本も投げつける。

 『竜』を中心に、再び砂塵が舞った。


 暴れ始めたらまた危ないと、息も絶え絶えで今にも倒れそうなアイを支えるウルシャとクオンが、ハイエースへと運び込む。


「イセ、イセ……」


 アイが息苦しくて、声にも出せないくらいなのに、俺を呼んだ。


「どうした?」


 息を落ち着かせながら、アイは必死になって言葉を紡ぐ。

 必ず伝えないといけないことなのかもしれない。

 声量が足りなくて聞こえないんじゃないかと心配になり、耳をアイの方へと近づける。


「なんだ?」


「……イセ、『竜』を助けるんだ」


 その場にいた全員が聞こえたのか、誰も声を発せられなかった。

 だから代表して俺が言った。


「何言ってんの?」


 もうそれ以外、言いようがなかった。


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