123話 『神器』たちの切り札
6体の天使たちの中心に出現したのは、炎を纏った巨大な矢。
遠くからでもはっきりわかるその形から、相当な大きさとわかる。
あんなものを打ち込まれたら、いくら『竜』でも大ダメージは避けられないと思わせる凶悪さ。
天使ってどこの世界でも、裁きとか戦いとかそういう暴力的になると容赦ないイメージそのまんまなんだな……
と、場違いな感想を抱いていると、遠雷のような音が響く中から薄っすらと、それでも確かに聞こえた。
「終わりだ、『竜』よ」
キルケの喜びに満ちた声に合わせて、巨大な矢は発射された。
空を切り裂き焦がすような音と共に、『竜』へと突き進む『天の火』
その射線上にいた鬼王は、着地の体勢維持もできないくらいの横っ飛びで避ける。
鬼王の表情から、お前ら、一緒に殺ろうとしてただろっ! って感じで想定外だったようだ。
だからこそ、『竜』にとっては本当に不意打ちになった。
鬼王が避けたことで、『竜』へ『天の火』が伸びる。
『天の火』が迫っていることに、直前まで気づいてなかったように見えた『竜』
鬼王は、天使たちの行動を隠すように、戦っていたというわけか。
いきなりの連携で、ここまでのことができる鬼王の戦闘能力に、ぞくりと来た。
そして『天の火』を、『竜』はモロに受ける――
ドガアァァァァァ!!!!
今までの遠雷のような戦闘音から、爆発音のようなものが響く。
それは炎をまとった巨大な矢が『竜』の鱗に突き刺さった音……ではなかった。
爆煙の中、かすかに見える『竜』の姿。
『竜』は雄々しく立ち、大きく開いた口から青い炎のようなものを吐き出していた。
それは炎の巨矢を宙に留め、次第に真っ赤な炎を消し去り、矢そのものを消滅させる。
「『竜の息』……」
互いのもつ高エネルギーは相打つが、圧倒的な破壊力を示したのは『竜』の『竜の息』だった。
その様子を見て、俺もカウフタンも、魔法構築に集中するアイを守るウルシャとクオンも、俺たち全員を真力の盾で守るケアニスも、唖然としている。
さらには、宙に浮かぶ天使たちも、あの鬼王も、絶句している。
「マジか」
誰が呟いたのかわからない。
カウフタンかもしれないし、ケアニスかもしれないし、『竜』と戦う鬼王やキルケの声かもしれない。
それくらいここにいる皆の気持ちは、一致していた。
「どうした? 何があった? なんか今、通信が途切れたんだが」
「あ、そっちにも影響あるんだ」
俺はシガさんに説明をした。
「マジか?」
「そういえば、効かないんじゃないかって分かってましたね」
「いや流石に、『竜の息』で撃ち落とすとか想定外だ。本気で人類滅ぼす気だったら、もうすでに滅んでるな……」
そう言うシガさんは、とても冷静だった。
想定外とはいえ、シガさんは鬼王でも天使でも、『竜』が倒せないことが分かっていたからか。
「つまり全ては、アイ様に託されていたということですか……」
カウフタンのつぶやきと共に、俺は外にいるアイを見る。
この状況であっても、アイはただ集中していた。
ぶつぶつと何かをつぶやき、魔法を構築し続けていた。
「アイは最後の魔法使いだ。『竜』に対抗しうるのは、私の弟子だ」
シガさんの強気の発言が聞こえた瞬間、アイは顔をあげ、視線を『竜』の方へ。
俺は、アイからほとばしる魔力を感じ、さらにはそのほとばしった先へ、まるでプリンターから出力される絵や文字のように、空中に光る文様が浮かび上がる。
その文様は、『竜』よりも遥かに大きく、映し出された。
「積層式魔法陣……」
「ほう。アイめ、そこまでやるか」
カウフタンが言う魔法陣は、まるで光の文様で形作られた建築物のようだった。
「アイさん、まさか魔法体系を復活させたんですか?」
「ちがうぞケアニス、これがアイの魔法だ。ただの魔法だよ」
魔法陣によって囚われたように見える『竜』
それを見据えたアイのつぶやきがはっきり聞こえた。
「『竜』よ、お前の心を見せてもらうぞ」
「アイ!? そこまでするのかっ!?」
今までの冷静さが不思議になるほど、シガさんが叫ぶ。
そんな中、魔法陣はじわじわと『竜』の表面に染み込むように侵食していった。
アイによる、『竜』の精神侵食が始まった。




