116話 対『竜』共闘
「で、鬼王を呼んで、こっちの手札を見せたら、乗ってきてね。こうなった」
「ぶっちゃけるなぁ、シガースちゃん」
「割れる腹は割っておこう。もちろん各々のキモになる隠し事はそのままに」
「素直だなぁ。そんなだから、死んじゃうんだよ」
「転生してるから」
「しぶといね」
「で、師匠と鬼王は、アイたちが戦うこと前提なんだな」
「そうそう。イセくんを生かすためには、今ここで『力』を示すしかないよ?」
「アイは師匠とサミュエル卿がここにいたら、確実に魔法をぶっぱなしてた」
「だろうね。で、どうする? やらない?」
「…………」
アイは黙る。
そして、ケアニスも肩をすくめ、事情を見通せそうなカウフタンもクオンも、口を閉ざしている。
これは『竜』との戦いに巻き込まれそうだ。
「師匠、ひとつ聞きたい」
「私の知っていることならなんなりと」
「天界と亜人連盟……いや、キルケと鬼王とは、いったいどういう関係なんだ」
「彼らとは『神器』同士で、それぞれと協定を結んでいた。『竜』に関しては協力するとね。聞いてないとか言うなよ? アイと違って俺たちはそれぞれ国を背負っているんだ。下手に動けないし、大きな動きがあった時、手遅れになる可能性は出来る限り潰しておきたいんだ」
「わかった。でもそれだけじゃないだろ? 裏取引をしているだろ?」
「裏ってほど裏でもないよ。そっちはサミュエルくんだね。通商連合と教会の間で、帝都解放後の協定を結んでおきたいのと、亜人連盟もそこに絡めておきたいんだ。状況が変わるからこそ道筋をつけたい、それが彼が取引をしている理由だ」
アイは押し黙る。
感情的には俺たちに黙って動いているが、ことが終わった後の状況の整理に必死になっているのは、今のでもわかる。
「『竜』退治を言いだしたのは私だ。だけど、きっかけはアイだ」
「アイのせいにするな」
「召喚術でイセくんを呼び出して、天界とことを構えたのはアイだぞ」
「それとこれと一緒にするなっ!」
「おいおい、私は褒めてんだぞ? あそこまで追い込まれて、ここまで盛り返した。大したものだ。だから……まだまだ頑張ってほしい。イセくんもね」
いきなり俺に振られた。
「何故そこまでしてくれるんですか?」
「同郷のよしみってやつだよ」
「その使い方、多分間違ってますよ」
「だろうね。でも期待してる。イセの『力』に。ハイエースなら戦えるさ」
からかっているように聞こえるが、多分本気だ。
そして……ここまで追い込まれて、俺も黙ってやられるわけにはいかない。
「……『人喰い鬼の分隊』」
久しぶりに、呟いた。
だがそれだけで、残り8匹はハイエースの後部座席から飛び出してきて、すでにいる2匹と共にアイと俺たちを守るように囲んだ。
他の連中が、微動だにできないほどの召喚スピードだった。
キルケは黙って目を細め、鬼王は目を見開いて笑った。
「ほう! オーガを自在に操るか」
「やる気になったのか?」
俺が、シガさんに向かって頷こうとした時、アイの小さな手が遮る。
「やらない」
アイは、ガラケーの先にいるここにはいないシガさんを、そして鬼王とキルケを睨む。
「『竜』を退治してどうする? 『神器』同士の争いは御法度だ」
「わかった。譲歩しよう。退治はしない。あくまで帝都から追い出すだけだ」
シガさんはさらりと、アイの要求を飲んだ。
「イセくんには『竜』の弱体化を頼む。アイは魔法で認識妨害を。あとは天使の方々と、鬼王に任せる。殺さないように頼むよ」
「勝手に決めるな、シガース」
「キルケ。この共闘では私に従ってもらう。発起人だからな。その後は好きにしていい」
そう言うと、キルケが何が言いたげにしつつも、黙った。
「その条件は、俺たちも同じ?」
「うん。鬼王のその『竜』対策ってのを存分に見せてくれ」
「いいよ。天使の面々にもいい機会だから、見せておこうか」
これから運動でも始めようという感じで、鬼王は体を動かし始めた。
「では、新たな『神器』同盟による『竜』退治、始めますか」
ガラケー越しのシガさんの声は、楽しそうに弾んでいた。
もしこの場にいたらハイエースごと体当たりしたいと思ってしまった。




