107話 人間の行く末
次の日、アイはオフィリアに相談し、皆を集めてもらった。
ことがことだけに、完全に密室状態の場所に、今回の話の主要メンバーが集まる。
まずオフィリアと、政務を担当する信頼に値する側近たち。
そして衛兵隊長代理カウフタン。
それから、AI機関のアイ、ウルシャ、クオン、そして俺。
そこに、今回の議題の問題点になる、『神器』ケアニス。
オフィリアの側近たちは、ケアニスを見て皆緊張している。
魔境城塞で亜人の侵攻を阻止していた天界の天使だ。
緊張しないわけにはいかない。
「皆様方、お集まりいただきありがとうございます。今後のエジン公爵領の行く末について、『神器』アイ様よりお話がございます」
「大げさだな、オフィリア」
「ふふっ、そうでしょうか?」
オフィリアは、アイ様から皆に伝えてください、と行動で示した。
アイは、皆が注目する中、話し始める。
「聞いているとは思うが、アイはケアニスと、サミュエル卿のとこのシガースと、同盟を結んだ。人間以外の『神器』に対する『神器』同盟だ」
皆聞いているのか驚きはしないが、その同盟主のアイがはっきり発言し、ケアニスがうなずいたところを見て、一様に表情が引き締まった。
「それで、今後の対処のために、あの帝都の『竜』をなんとかしようと思う」
「「「「っ!?」」」」
引き締まるどころか、今度はオフィリアとカウフタンも含めてうめき声を出すかのように驚いている。
そりゃそうだよな。
いきなりで話が続かない。
「質問は待ってくれ。どうして『竜』の話をしたかというと、っていう話をまだしてない。えっと……多分あまり知られてないことだと思うが、あの『竜』は『神器』だ」
「「「「ええっ!?」」」」
ざわっ、とアイたち側の人以外は、席を立ちそうになるくらい驚いた。
「待て待て、慌てるな。これはケアニス含めて、『神器』たちは誰もが知っていることだ。だよな?」
「はい。『神器』は誰が『神器』か分かりますから」
「ということだ」
「アイ様、質問よろしいでしょうか?」
動揺しているエジン公爵領側のメンツの中で、比較的しっかりしている様子のカウフタンが発言の許可を求め、OKを出すアイ。
「『竜』は、帝都を占拠しています。これは『神器』としてこの帝国を認めないという意思表示なのでしょうか?」
『竜』が『神器』であることの問題点は、まさにそれだった。
だからアイも、シガさんも……そしておそらく天使たちも、公表していなかった。
「いい質問だ、カウフタン。そのことを話そうと思っていた」
アイは、人類の代表と呼ばれる唯一の魔法使いの『神器』として、力強く言った。
「それを、アイは、ケアニスとイセと共に、会って聞いてこようと思う。だからカウフタンからの質問に、アイからは、まだわからん、と応えておく」
「そう、ですか」
「だがアイは『竜』が帝国を滅ぼそうとしているとは考えていない。もしそうなら、あの恐るべき力を振るい、帝国全土に大きな被害が出ただろう」
「そうですね。あの『力』は天界の力をもってしても、止めるのがやっと。魔法を失った人間たちに対処は難しいでしょう」
「ということで、滅ぼす気はない。となると、どうしてそこに居着くんだって話になる。そこをアイたちは聞いてこようと思う」
「聞く? 『竜』と話すのですか? いや、話せるのですか?」
「わからん。それも今回試しにいく」
ざわめいていた室内が、静かになる。
アイは軽く言ったが、試しにいくという発言から、何かしら察したようだ。
「アイ様、その覚悟なのですね」
「ん? ああ、『竜』にやられるかもしれないというんだな? そこは大丈夫だ。アイにはケアニスがいるし、イセもいる」
そこで俺!?
今回の発言で、今のが一番びびった。
またアイの軽い受け答えに、オフィリアは苦笑する。
「やっぱり大げさではなかったですね」
「ん?」
「エジン公爵領の行く末の話ではなく、帝国……いえ、人間の行く末の話でした」
オフィリアの発言に、皆が同意したかのような納得顔をする。
それを見たアイは、首をかしげるばかりだ。
危なげで頼りなげにも見えるアイの様子。
だが、この自然体で『竜』に会いに行くと言えるのが、アイが大器である所以なのかもしれない。
「アイ様。私、オフィリアはエジン公爵家の代表として、アイ様のご判断をご支持いたします。存分に援助させていただきます」
「ああ、よろしく」
オフィリアの発言に続いて、側近たちもうやうやしく頭をさげた。
これでまとまった? と思ったら、カウフタンがアイに向かって挙手してきた。
「また発言、よろしいですか?」
まとまりかけているのに、何を発言する気なんだカウフタン。




